ステップ・プラス・ファンクションクレームと解釈されないために英訳で注意すること

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以前記事にした「ミーンズ・プラス・ファンクションクレームと権利範囲の大小」に関連して、今回は似たような「ステップ・プラス・ファンクションクレーム」についての話をまとめておきます。

 

ステップ・プラス・ファンクションクレームは、ミーンズ・プラス・ファンクションクレームの亜種

ステップ・プラス・ファンクションクレームというのは、簡単に言うとミーンズ・プラス・ファンクションクレームの1種で、米国特許法第112条(f)項に記載されている条文に基づいて判断されるものです。

 

この、第112条(f)項の条文を再掲しておくと、

ELEMENT IN CLAIM FOR A COMBINATION – An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof.

(組み合わせに関するクレームの要素:組み合わせに関するクレームの要素は、構造/材料/あるいは行為を明記することなく、特定の機能を達成する手段/材料/あるいは行為、あるいは、それらに均等するものを含むものと解釈される)

(※「米国特許クレーム例集」p81より引用)

というものになります。

 

ここで、様々なクレームがある中で、「物/装置」のクレームはミーンズ・プラス・ファンクションクレームに解釈される可能性があり、「方法/工程」クレームが、ステップ・プラス・ファンクションクレームに解釈される可能性がある、ということになっています。

 

つまり、

物/装置クレーム=ミーンズ・プラス・ファンクションクレームの可能性

方法/工程クレーム=ステップ・プラス・ファンクションクレームの可能性

があるという話で、いずれにしても、米国特許法112(f)の条文に基づいての判断となる、ということです。

 

ステップ・プラス・ファンクションクレームに対するCAFCの見解と対処法

CAFC (US Court of Appeals for Federal Curcuit:連邦巡回区控訴裁判所)は、

行為がなくステップ・プラス・ファンクションのみが記載されているときに(only when steps plus function without acts are present)、第112条(f)項が適用される。つまり、”a step for”の後に特定の機能(a specified function)の記載がない場合にステップ・プラス・ファンクションクレームとなる

という判断を下しています。つまり、機能(function)だけ記載していて、行為(acts)を記載していない場合は、ステップ・プラス・ファンクションクレームとなる、ということです。

 

大事なのは、ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム同様に、ステップ・プラス・ファンクションクレームと解釈されてしまうと、必要以上にクレームの範囲が狭く解釈されてしまうおそれがある、ということです。

 

では、行為(acts)とは何なのか、ということですが、CAFCは

方法クレーム要素の基礎をなす機能とは、クレームの他の要素やクレーム全体が成し遂げるものとの関連で、その要素が最終的に成し遂げるものに相当する。一方、行為はどの様に機能が成し遂げられるかに相当する

(the “underlying function” of a method claim element corresponds to what that element ultimately accomplishes in relationship to what other elements of the claim and the claim as a whole accomplish. “Acts”, on the other hand, correspond to how the function is accomplished.

(※上記2箇所の引用部分は、「米国特許クレーム例集」p89, 90より引用。一部表記はブログ筆者が修正)

 

という判断を下しています。

 

 

また、詳細は割愛しますが(上で紹介している本をご参照下さい)、CAFCは加えて、“step of”という表現では、第112条(f)項の適用は推定されない、という見解も下しています。

 

ですので、ステップ・プラス・ファンクションクレームと解釈される可能性を一番簡単に低くする方法としては、”step for”ではなく”step of”を用いる、ということが挙げられます。

(”step of”は、機能ではなく、特定の行為を導入する合図となる、という見解のようです)

 

また、もう1つ、不必要に権利範囲を狭められないようにするためのクレーム記載方法としては、”step of”をも用いない(=of以下の動名詞句のみを、クレームの行為要素を記載する)というものもあります。

 

 

ステップ・プラス・ファンクションクレームであるか否かの判断は、判例が少ないため簡単ではないようですが、翻訳者としては、英訳の際に「特許法112条(f)項の適用を避けるため」にできる対策とすれば、

・”step for”ではなく”step of”を使って、構成要素を記載する

・”step of”も用いずに、単に動名詞句(determining, measuringなど)を用いて、構成要素を記載する

という2つが、現実的ではないかと思われます。

 

 

※この内容について、アップデートした記事を新たに書きました。

合わせてご参照ください。

ステップ・プラス・ファンクションクレームを避けるための請求項の書き方

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