先日更新した記事では、based onとon the basis ofの文法的な役割の違いと、正しい使い分けについて解説をしました。
ただ、自分でも気になっていたのが、「なぜこのような間違いを(自分が)してしまうのか」、ということでした。
というのも、少なくとも私は、中学校から始まる義務教育の前からNHKのラジオ英語番組のテキストを使って英語の勉強をしていましたし、高校で習う、いわゆる「受験英語」に必要な文法事項などについては、高校2年で始まる該当する授業が始まる前に、ラジオ英語講座で一通り勉強はしていたので、これらの表現の使い分けも、当時は正しくできたと思うからです。
じゃあ、どこでこの2つの用法の区別が付かなくなったのか?というと、「英語用法百科」と並行して読み進めている「米国特許クレーム例集」に、大きなヒントがありました。
この本の、第2章「米国の審査実務に沿ったクレーム作成」の中に、「4.Antecedent basis(先行詞):(3)参考となる表現」(55ページ~)という節があり、ここで以下のような例が出ています。
「③on a basis ofは使用せず、based onを使用する」
ここで言う「先行詞」というのはもちろん、特許明細書の請求項で使われる「初出にはa(n)、既出にはtheを用いる」(日本語明細書の請求項でいう、「前記」を付けるか否か」という用法についてのものなのですが、この中で、“「on a basis of」は用いずに「based on」を用いる”という例が出てきます。
以下、少し長いですがこの本からの引用です(56ページ~)。
例えば、以下の場合、二度目のbasis ofに関して(A)(B)のどちらが正しいのであろうか。
(A)”a controller determines whether to start a requested operation on a basis of a first result, and whether to continue the requested operation on the basis of a second result”(コントローラーは、第一の結果に基づいて要求された操作を開始するかどうかを決定し、第二の結果に基づいて前記要求された操作を係属するかどうかを決定する)
(B)”a controller determines whether to start a requested operation on a basis of a first result, and whether to continue the requested operation on a basis of a second result”
(A)は、”on a basis of”の観点からは二度目であるのでon the basis ofを用いている。一方、(B)はbasis ofの基礎となるのは最初はa first resultであり、二度目はa second resultであるのでon a basis ofを用いている。どちらがよいのか悩むところである。
どちらが正しいか判断する前に、このような悩む用語は用いず、based onを使い、
“a controller determines whether to start a requested operation based on a first result, and whether to continue to the requested operation based on a second result”
とすることを勧める。悩むような用語は用いないことである。
確かに、請求項での先行詞の問題を考えると、on the basis ofを「~に基づいて」の意味で用いた場合、theは最初に用いると「請求項の前の部分でa basisが出てこない」という判断がされる可能性はあります。
それを鑑みると、少なくとも請求項においてはon the basis ofよりもbased onを用いるほうが「手堅い」のは間違いなさそうですが、そうすると、前のブログでまとめたような、「文法的にはon the basis ofとbased onの用法・役割・修飾する内容は異なる」という観点からみると、必ずしもon the basis ofの代わりにbased onを用いることはできない、とも考えることができます。
文法的側面から考えると、
(1)a controller determines whether to start a requested operation on a(the) basis of a first result
の場合は、on the basis of以降のものが修飾をするのは主節の動詞(determines)となり、これは「~に基づいて判断をする」という意味になります(つまり、deteriminesの判断事項がa first resultになる、ということです)。
しかしこれを、
(2)a controller determines whether to start a requested operation based on a first result
とすると、文法的には、based onはa requested operationを修飾することになるので、意味を取ると「first resultに依拠するrequested operationを、開始するかどうか」ということになるので、厳密に考えれば、この(1)と(2)では意味する内容が異なる、ということになるでしょう(つまり、複雑な先行詞の問題を踏まえても、on a/the basis ofをbased onで言い換えることは、意味が等価とはならない)。
ただ、これらを総合して考えても、少なくともクレームライティング・クレーム翻訳という実務の側面から考えると、「on the basis ofの代わりにbased onを用いることは慣用的に(対策として)認められており、かつ、これらの言葉を入れ替えても意味は変わらない」というのが実態であり、「仕事をする上での最適解」ではないか、と思います。
英語で書かれた明細書を読んだときに、実際のところどう訳すのか?という実務的な問題
というのも、私は明細書翻訳の8~9割を和訳で行っていますが、機械・通信系の明細書だと、「~を~するように処理する命令を行う構成要素、を含む装置」みたいな、命令(プログラム)とその構成要素、そしてその構成要素を含む装置についての請求項がよく出てきます。
そして、そのような請求項の英語での記載を見ていると、確かに今まで、「●●の結果に基づいて~~を判断して■■という判断をする」というような処理プロセスを説明するときに用いられている表現は、9割以上on the basis ofではなくbased onだったように思います。on the basis ofが使われていた明細書は思い出せないというか、そもそも見たことないのかもしれませんが、いずれにせよ、上で出したような説明が長く続く明細書でも、「based on」以降の内容がどこにかかるのか、と言えば、「determine」のような「~に基づいて判断する/決定する/操作する」という、動詞だと解釈して翻訳をしていました。
結局、こういう仕事をしていると、前後のコンテクストから何を言いたいのかは判断できる場合がほとんどなので、あまり文法的な違いを意識しすぎるのも良くないのかな、とは思います。
とは言いつつ、請求項以外の明細書の箇所では、できるだけ論理的に厳密になるように、(請求項の表現をそのまま用いて実施形態を説明する場合を除いて)on the basis ofとbased onの使い分けなどは、厳密に行っていきたいものですね。
based onが分詞構文(懸垂分詞)になる英訳を読んで違和感を覚えるの、分詞構文の主語と主節の主語が一致しない、ということを「用法百科」を読んでようやく日本語で説明できるように理解したのやけど、じゃあなんで、今までその違和感を言語化できていなかったのかと言えば、
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) January 22, 2020
英語で書かれた請求項の中で機械・通信系のものだと、「〜という判断に基づいて〜という操作をする」みたいな説明をする時に、文法的に正しいon the basis ofを用いると、初出と既出の問題でbasisの前の冠詞をどうするのか、という問題が別にあって、こういう請求項でbased onが使われているものを、
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) January 22, 2020
これまで何百件と読んできて、それが普通の用法やと違和感持たないようになっていたんやな、と、「米国クレーム例集」読んでて気づいたわ。
機械学習って怖いな〜
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) January 22, 2020
確かに、明細書本文の中で論理的に説明するなら、文脈と説明したい事項に合わせてbased onとon the basis of使い分けるけど、請求項で使うなら、違和感あっても無意識的にbased onで済ませてしまうと思うわ…。
言葉は生き物、仕事は生き物やな。
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) January 22, 2020
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