ミーンズ・プラス・ファンクションクーレムと権利範囲の大小の関係

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米国出願では特有のクレーム形式がいくつかあり、その1つに「ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム」というのがあります。

 

これは、端的に言うと、構成要件をmeans for/step forを用いて記載しているクレームのことで、日本語明細書の請求項において、「~(ための)手段/工程」という記載で構成要件が定義されている場合、この表現をそのまま英訳してしまうと、権利範囲が狭くなってしまう可能性がある、という問題を孕んでいます。

 

ミーンズ・プラス・ファンクションクレームが孕む問題点

日本語明細書の請求項で、

【請求項1】

Xであって、

A1のための手段と、

A2のための手段と、

A3のための手段と、

を備える、X。

といった内容になっている場合、これをそのまま

An X comprising;

a means for A1

a means for A2

a means for A3.

という風に翻訳してしまうと、このように記載された英語請求項は「ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム」に該当してしまう恐れがあります。

 

この、ミーンズ・プラス・ファンクションクレームの何が問題かというと、米国特許法第112条で、この形式で書かれた請求項は、記載された内容に対応するもの及び均等物を含むように解釈される、ということが明文化されている、ということです。

 

米国特許法の第112号の該当部分の英語と日本語訳を載せると、

ELEMENT IN CLAIM FOR A COMBINATION – An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof.

(組み合わせに関するクレームの要素:組み合わせに関するクレームの要素は、構造/材料/あるいは行為を明記することなく、特定の機能を達成する手段/材料/あるいは行為、あるいは、それらに均等するものを含むものと解釈される)

(※「米国特許クレーム例集」p81より引用)

というものです。

 

この記載から、米国出願用の明細書の請求項で、構成要素を「a means for/a step for…」と説明してしまうと、権利範囲が、明細書内の実施形態・実施例に対応する構造、材料、又は作用、及びこれらの均等物にまでしか及ばなくなってしまうので、必要以上に特許の権利範囲を狭めてしまう恐れがある、という問題を孕んでいるわけです。

 

ミーンズ・プラス・ファンクションクレームを回避するための対応策

このような現況から、日本語明細書を英訳する際には、ミーンズ・プラス・ファンクションクレームであると解釈される恐れのある言葉をなるべく使わないようにする必要があります。

 

この対策はいくつかあり、例えば構造的な用語を用いる、ということが現実的な解として挙げられているようです。

 

判例に基づく、適切な用語と不適切な言葉の例を挙げておくと、

・ミーンズ・プラス・ファンクションクレームと判断された言葉(=不適切な言葉)の例

  • mechanism for, module for, device forなど、単にmeansの置き換えとなっている言葉(これらの言葉自体が構造を表すのではなく、機能を表している)
  • lever moving element for moving the lever, movable link member for holding the lever など(これらの言葉も上記同様、機械的な構造ではなく機能を表している)
  • ink delivery meansのように、”means for …”と同値である表現

・ミーンズ・プラス・ファンクションクレームと判断されなかった言葉(=適切な言葉)の例

  • filters, brakes, clamp, screw driver, locksなど(装置などにおける、機械的な構造を表したもの)
  • modernizing device, computing unitなど
  • その他の用語(circuit, detent  mechanism, digital detector, reciprocating memberなど)

というのがあるようです(いずれも同じく、「米国特許クレーム例集」より引用)

 

 

また、物や物質の製造において、「~する工程(a step for…)」といった表現で構成要素が記載されている場合も、これをそのまま訳してしまうとミーンズ・プラス・ファンクションクレームとみなされてしまう恐れがあるため、このような場合は単に、動名詞句で記載する(”a step for determining…”を、単に”determining…”と修正する)といった対応策が考えられます。

 

 

日本語明細書を英訳する際に、「米国特許法第112条の(f)に抵触しないように対応する」という指示があるのは、こういった内容に基づいてのものだと考えられます。

 

※2020.02.03追記

本記事最下部の2段落は、ミーンズ・プラス・ファンクションではなくステップ・プラス・ファンクションクレームについての説明なので、直接関係はありません。ステップ・プラス・ファンクションクレームについての記事は、改めてまとめようと思います。

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