「及び」と「又は」が同時に出てくる場合の対処法

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今回は、法令用語の応用編である。
法令用語として、「及び」と「並びに」の使い分け、「又は」と「もしくは」の使い分けが厳密になされていることは、以前のこちらこちらの記事で述べた。
ただ、これらだけを使えれば全て捌けるのかというと、そうでもないのがこの世界のややこしいところだ。

というのも、「及び」と「又は」が同時に、並列的に用いられている場合が英文明細書に多々見られるからだ。

その奇異な表現が、and/orである。

これはそのまま、「及び/又は」と訳されている明細書があったり、日本からの出願の明細書でも使われている場合もあるので、間違いとまでは言わないのであろうが、正直言って「ダサい」。
だいいち、厳格な定義が必要な法律文書において、「及び/又は」という表現は厳密性が担保されていないような印象を受ける。逃げの余地があるというか、含みが広すぎるというか、そんな印象を持ってしまう。
では、実際にどんなところで使われているのかというと、例えばこんなものである。

To provide a sweetness and/or milk flavor enhancer which can increase the sweetness and/or the milk flavor of a cooked product and therefore enables the reduction of the amount of a sweetening agent and/or a milk flavor additive to be used.
要するに「甘み」and/or「牛乳の風味」を付与する、ということなのだが、このand/orが何を意味するのか、というのは一度じっくり考えなければならない。
この奇異な「and/or」を見れば分かるかと思うが、この表現そのものが意味するのは、

“and” or “or”ということである。
なんだか禅問答のようであるが、上の場合を因数分解すると、

「甘み」and「牛乳の風味」を付与する場合、と、

「甘み」or「牛乳の風味」を付与する場合、とがあるわけである。

これをきちんと場合分けしてみると、

・「甘み」と「牛乳の風味」の両方を付与する場合 (and、の意味)

・「甘み」だけを付与する場合 (or、の意味)

・「牛乳の風味」だけを付与する場合 (or、の意味)

の3つが考えられる、ということである。
あるいは、3つ以上の羅列をand/orでくくっている場合も見られる。
A, B, and/or C

↑こんなものである。

この場合、まずand/orで因数分解をしてみると

A, B and C

A, B or C

の2通りになるわけだが、これは即ち

Aだけ
Bだけ
Cだけ
AとB
AとC
BとC
AもBもCも全て

を意味することになるのはお分かり頂けるだろうか。
それでは、この表現に出くわしたにどう対応すべきなのか、と言えば、考え方のヒントはこちらに載っている。

これはあくまで一つの考え方に過ぎないが、ここでは

①2つのものがand/orで繋がっている場合は「A又はBの少なくとも一方(1つ)」という表現を使う

②3つ以上のものがand/orで繋がっている場合は「A、B、又はCの少なくともいずれか一つ」

という表現が、「原文と等価なもの」として挙げられている。

確かに、「A又はBの少なくとも一方(1つ)」では上で挙げた3通りを全て包含しているし、「A、B、又はCの少なくともいずれか一つ」であれば、上の7通りを全て網羅できている。
この考え方を理解した上で、「少なくとも…」の表現を用いるのは一つの策であろう。

なお、クライアントによっては「及び/又は」で訳出、という指示もあるので、その場合はそれに従うことにしている。

ただ、この「and/or」の表現は、できる限り避けて欲しいというのが率直な感想である。
というのも、時々以下のような場合が出てくるからだ。
例えば、and/orが入れ子構造になって複数出てきている場合。

日本語で書くと
「●を加熱 and/or 攪拌することを含む工程、and/or ●を冷却 and/or 再結晶する工程」のような文章が英語にあると、さすがに

「加熱もしくは攪拌の少なくとも1つを含む工程、又は冷却もしくは再結晶の少なくとも1つを含む工程、の少なくとも1つ」となって、タダでさえ何が何だかよく分からないのにややこしさに拍車がかかってしまう。こういう場合は「及び/又は」を入れ子構造に注意しながら用いる、ということも考え、最終的に読みやすいほうを選ぶのであるが、一文中にこんなに含みの多い文章は、あまり理にかなったものではないのではないだろうか。

(以前読んだ明細書ではand/orが三段階にわたって用いられていて飛び上がったことがあった。さすがにここまで来れば、原文がまずいと言わざるを得ないだろう…)
あと、上の「甘み」の例で出した文章もそうなのだが、安易にand/orを用いてしまうと矛盾が生じてしまう場合もある。
この文章だと、そのまま訳すと
調理製品の甘み及び/又は牛乳の風味を増大することができる、甘み及び/又は牛乳の風味増強剤
のようになるのだが、これはおかしいとも言える。
というのも、この文章だとまるで、「牛乳の風味増強剤」によって「甘みの増大」ができてしまうように捉えられるからである。

ここで言いたいのは
・甘み増強剤の場合→甘みが増大
・風味増強剤の場合→風味が増大
・両方の増強剤の場合→両方が増大

という一対一の対応なのであろうが、

and/orが二つ以上出てくる場合、それらの並列の内容をたすき掛けするような組み合わせも考えられてしまうから、and/orを使わないような表現にするなど、改善の余地はあるのではないか、と考える。
(もちろん、常識的に考えてその組み合わせはない、という考えもしごく真っ当である)
ここまでくると、特許翻訳ではなく明細書作成の話になるので深入りはしないでおくが、とにかくand/orという表現には要注意、という話である。
なお、「及び/又は」に関する特許判例も出ているので、興味がある方はこちらもご覧頂きたい。

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