スポンサーリンク

combinations thereofとmixtures thereofの違いと使い分け

明細書

今回は、英語の特許明細書(外国の技術者や担当者が書いた原文)で時々見られる表現について取り扱います。

 

タイトルにあるように、明細書で色んな要素を列挙するときに
combinations thereof
という表現が使われます。

thereofというのは、このフレーズの前に列挙された要素を指すので、日本語としては「これらの組み合わせ」みたいな意味になるのですが、

時々、これと似たような表現で
mixtures thereof
という表現が見られます。

まず、conbinations thereofがどんな時に使われるのかというと、

the liquid continuous phase comprises a material selected from the group consisting of: water, glycerine, formamide, fluorinated oils, and combinations thereof.

といった例があります。
文章を区切ってみると

the liquid continuous phase comprises

a material selected from the group consisting of:

water,
glycerine,
formamide,
fluorinated oils,

and combinations thereof.

 

こんな風になりますね。

liquid continuous phase=液体連続相が、
wate…fluorinated oilsの要素でできている、ということを言わんとしています。

で、最後にand combinations thereofを付けて、

 

この場合だとliquid continuous phaseが、
例えばwaterとformamideとdimethyl sulfoxideを組み合わせてできている
という内容も含まれるようになっています。

 

列挙した要素が単品じゃなくても、組み合わせでもいいということですね。

 

ただ、同時に同じ明細書では、以下のような文章もありました。

The silicone may comprise a material selected from the group consisting of non-functionalized siloxane polymers, functionalized siloxane polymers, silicone resins, silicone solvents, cyclic silicones and mixtures thereof.

 

区切ってみると

The silicone may comprise

a material selected from the group consisting of

non-functionalized siloxane polymers,
functionalized siloxane polymers,
silicone resins,
silicone solvents,
cyclic silicones

and mixtures thereof.

 

今回は、シリコーン(=silicone、silicon(ケイ素)とは違います!)が、文章の後半で列挙した化合物で構成される、ということを言わんとしていますね。

 

で、ここでは最後にcombinations thereofではなくてmixtures thereofが使われています。

 

ので、ここはそのまま訳すと「及びこれらの混合物」となりますが…

 

果たして、これでいいのかというのが問題です。

というのも、mixtures=混合物、なので
要するに、その前に列挙した要素が混合されている、ということになりますね。

ただ、果たしてここでは本当に、siliconeには要素の混合物も含まれる、
ということが言いたいのか?ということを考える必要があります。
というのも、siliconeというのは
Si-O-Si(ケイ素-酸素-ケイ素)結合を骨格とした化合物ですが

※参考:https://www.silicone.jp/info/begin1.shtml(信越シリコーンの会社HP)
この文章が言いたいのは、シリコーンの構成要素が
non-functionalized siloxane polymers,
functionalized siloxane polymers,
silicone resins,
silicone solvents,
cyclic silicones
これらでできている、ということです。

 

ただ、この文章ではmixtures(混合物)が出てきていますが、

 

果たして、そもそも
non-functionalized siloxane polymers,
functionalized siloxane polymers,
silicone resins,
silicone solvents,
cyclic silicones
これらを「混合できるのか?」
ということが疑問です。

例えばnon-functionalized siloxane polymersは、
いろんな具体例を一括りにして表す表現ですから
何か特定の化合物を1つピックアップしているわけではありません。

 

なので、non-functionalized siloxane polymersが
液体なのか固体なのか、というのはそもそも問いようがないわけです。

 

同様にfunctionalized siloxane polymersについても同じですね。
ただ、そう考えてみると、例えば液体どうしであれば「混合」すれば混合物はできますが、原材料が固体同士であれば、それらを混合しても別に何かが生まれるわけではありません。

 

イメージでいうと、ごまと塩をすり鉢にいれてごま塩ができる、という感じですね。
なので、ここで使われている「and mixtures thereof」は恐らく「and combinations thereof」の間違いではないか?と考えることはできるわけです。

(間違いなのか、英語ではmixtureにcombinationの意味があるのか、のどちらかです)

このand mixtures thereofが、もしand combinations thereofであれば、
この文章は

シリコーンを構成する要素には
non-functionalized siloxane polymers, -(A)
functionalized siloxane polymers, -(B)
siliconeresins, -(C)
silicone solvents, -(D)
cyclic silicones-(E)
があるけれど、例えば

-(A)-(B)-(A)-(B)-
-(B)-(D)-(E)-(B)-(D)-(E)-

みたいな組み合わせでシリコーンを作ってもいい、という意味に捉えられます。
※便宜上ここでは直線で示しましたが、
ケイ素原子は


-Si-

のように、四方に結合の手を持っているので
網目状に上のABCDEが結合することもできます。
なので、ここで使われているmixtures thereofは、combinations thereofが正しいのではないか?と考えることができます。
ちなみに、この明細書では、本文中では

a material selected from the group consisting of(長い化合物の羅列), and mixtures thereof
となっていたのに、同じ内容についての請求項では

a material selected from the group consisting of(長い化合物の羅列), and combinations thereof
となっていました。

 

※(長い化合物の羅列)に出てきた化合物は一緒です
これは恐らく、請求項での表現が正しくて、本文中の表現は間違っていると思われます。

実は、ネット上の英英辞典でmixtureの意味を調べてみると

 

オックスフォード辞典だと
https://en.oxforddictionaries.com/definition/mixture

ケンブリッジ辞典だと
http://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/mixture

のように、mixtureの意味としては

“A combination of different things in which the component elements are individually distinct.”

と、「組み合わせ」の意味がある、と書かれているので、判断は難しいところですが、

 

化合物が列挙されると、mixtureは

“The product of the random distribution of one substance through another without any chemical reaction, as distinct from a compound.”

のように、いわゆる「混合物」の意味に捉えられてしまうのが普通だと思うので、

 

ここではやはり、combinationsを使うのがベターだと思います。

※日本語の辞書を引くと、mixtureには「混合物」の意味しかなく、「組み合わせ」という意味はないようです。

 

で、こういう場合に翻訳者はどう対応するか?ですが、

1つは、「混合物」と訳出して「mixturesはcombinationsの意味だと思われますが、原文通りに訳しました」とコメントを付ける、

あるいは、「mixturesはcombinationsの意味で使われていると思われます」とコメントした上で、「組み合わせ」と訳すのも、なきにしもあらずだと思います。
ただ、後者は 日本人、日本語的に一般的な解釈とならない可能性があるので無難なのは前者でしょう。

 

今回はちょっと複雑な話になってしまいましたが、
興味がある方は、Google patentsとかで「and mixtures thereof」のフレーズを検索したり
それに対して日本語対訳がある明細書を読んでみてはいかがでしょうか。

 

スポンサードリンク
jiyuugatanookite.com

コメント

  1. コンドウ ユウスケ より:

    この場合だとliquid continuous phaseが、
    例えばwaterとformamideとdimethyl sulfoxideを組み合わせてできている
    という内容も含まれるようになっています。
    と記載されていますが、「dimethyl sulfoxide」は列挙された
    water, glycerine, formamide, fluorinated oils,のどれのことでしょうか?

タイトルとURLをコピーしました