今回は、特許請求の範囲で用いられる二つの表現を比較してみたい。
一般的に、独立請求項は以下のような構造を有する。
AAA, comprising
(a) aaa
(b) bbb
and
(c) ccc.
「AAA」が大元となる「物」又は「方法」となり、
「物」の場合、(a)~(c)は各成分であったり、
「方法」の場合、(a)~(c)は各プロセス(工程)であったりする。
今回注目するのは、AAAの後に用いられる “comprising”の箇所で用いられる表現についてだ。
この表現には大別して2通りあり、それが表題の通り
・オープンエンド形式
と
・クローズドエンド形式
なのだが、この両者の違いは何であろうか。以下、順に見ていきたい。
オープンエンド形式
これには、以下のような特徴がある。
列挙要素は一部
請求項に挙げた成分は、列挙したものだけに限定されず、
他の成分等や代替要素が含まれ得ることを示すのに使われる。
つまり、「請求の範囲を広く取る」のに用いられるのが、この形式だ。
繋ぎの語句は comprising(~を含む)
オープンエンド形式では、必ずcomprisingを使う。
例えば、Google Patentで検索をしてみると以下のような明細書がヒットした。
A process of producing a composition comprising a mixture of at least two different proteins, of which at least one is a coagulating protein and at least one is an anti-coagulating protein, the process comprising:
(a) heat-sterilising a first liquid component comprising the coagulating protein,
(b) heat-sterilising a second liquid component comprising the anti-coagulating protein, and
(c) mixing the first component with the second component to obtain a mixture of the proteins,
wherein the mixture has a weight ratio of the coagulating protein to the anti-coagulating protein between 20:1 and 1:1.
やや複雑な構造をした請求項であるが、以下のような訳となろうか。
少なくとも1つが凝固性タンパク質であり、かつ少なくとも1つが抗凝固性タンパク質である、少なくとも2つの異なるタンパク質の混合物を含む、組成物の製造プロセスであって、前記プロセスが、
(a)前記凝固性タンパク質を含む第一の液体成分を加熱殺菌すること、
(b)前記抗凝固性タンパク質を含む第二の液体成分を加熱殺菌すること、
(c)及び前記第一成分を前記第二成分と混合して、前記タンパク質の混合物を得ること、を含み、
前記混合物は、20:1~1:1の、抗凝固性タンパク質に対する凝固性タンパク質の重量比を有する
ことを特徴とする、製造プロセス。
ここで、comprisingが言わんとしていることは、
「ここに挙げた成分以外のものを含んでよい」ということなので、例えば、最初の部分では、
二種類のタンパク質以外の成分が含まれていても請求の範囲に含まれ、
(a)~(c)の工程以外の工程が存在していても請求の範囲に含まれ、
(a)、(b)においては、タンパク質以外の成分も一緒に加熱殺菌することも請求の範囲に含まれる
という、「含みを多くする」ための用法である、ということがお分かり頂けるであろう。
ここで「他の成分」が何を指すのかは、本文を見ないと分からないが、例えばタンパク質の加工にプラスに作用する補助剤、というものではなかろうか。
クローズドエンド形式
こちらは一方で、以下のような特徴がある。
列挙要素が全て
特許請求項に記載された構成要素のみで発明が構成される、という解釈を行うのがこちらの形式だ。
繋ぎの語句は consisting of (~からなる)
例えば、以下のような例だ。
A composition consisting of from less than 100% to more than 80% of trans-1-(2,6,6-trimethylcyclohexyl)-hexan-3-ol and a definite amount, but not more than about 20% of cis-1-(2,6,6-trimethylcyclohexyl)-hexan-3-ol.
ここでは、consistintg of 以下に列挙している化合物のみで構成される「物」(ここでは組成物)のみが、請求の範囲に含まれ、何か別の要素が入り込んでしまうと、範囲外となる。
要するに「限定的」な表現である、というわけだ。
なお、一般的には権利範囲を広く取るために、オープンエンド形式を用いられるが、
例えば塩基配列により遺伝子を、又はアミノ酸配列でタンパク質を特定する場合には、
オープンエンド形式での記載を特許庁は認めておらず、必ずクローズドエンド形式で書かないといけないようになっている。
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