特許翻訳者の教育の未来を勝手気ままに考える~知財業界での教育~

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弁理士の日記念ブログ企画2024に参加、ということで、「特許翻訳者の教育」というテーマで書いて行こうと思います。

 

さて、私自身は、翻訳会社や特許事務所を経由して独立したわけではなく、即独(?)をする中で、独学で特許翻訳を勉強してきました(厳密に言うと、オンライン講座を使っての独学)。

 

この記事を書いている時点で、特許翻訳9年目になっているのですが、いわゆる「野良」のようなスタイルで仕事をしてきたので、組織内で、特許翻訳という業務の教育が、どのように行われているのかはよく分かっていません。ので、そういう前提をご了承いただいた上で、特許翻訳者の教育にどういう要素が必要なのか、というのを書き連ねていきたいと思います。

 

この内容はある意味、自分自身が今後、人を育てることになったときに、読み返して参考にしたい、という内容でもあります。

①一定以上の語学力(例えば英語、日本語)

まずは当たり前ですが、翻訳なので、母語と、ペアになる言語の2つの言語を、一定以上のレベルで理解していることが必要になるでしょう。日本語が母語の場合、それを「語学力」というのは不適切かもしれませんが、要は「言語運用能力」ですね。自分は外内の翻訳をしているので、「日本語の表現(ライティング)能力」と言ってもいいでしょうか。

 

例えば、「てにをは」をきちんと使えるとか、自動詞と他動詞を使い分けることができるとか、主語や主題を明示して表現できるか、みたいな内容です。文章を読んでいて、あるいは自分で書いていてもたまに気付くのですが、自動詞と他動詞の使い分けをきちんとできていないことが、思った以上にあります(そういうことに気付きます)。口頭で話しているのであれば許容されると思うのですが、文章として、かつ法律文書兼技術文書である、正式な文書の特許明細書を表現するときに、これは拙いと思います。

 

卑近な例を出すと、「物を挟む」「物が挟まる」のような使い分けですね。こういう使い分けがあるときに、「を」「が」と、その後に続く適切な動詞がズレていることがあります。これで言うと「物が挟む」ですね。あくまで喩えですが、何も意識せずに文章を書いていると、あるいは、翻訳で原文の意図をあれこれ考えて、文脈を一瞬忘れてしまうと、こういうズレはいとも簡単に生じるので、実はこういうズレを無くすには、訓練を積んで練習を重ねるしかないと思います。

 

 

また、外内の文脈で言うと、原文の文法知識が必要であるのは言うまでもありませんが、これも通用しない場合もあります。非限定用法でしか用いられない関係代名詞whichが、限定用法で用いられていたり、such that, so that, “, so that”(コンマが前に付く)は意味や用法が違うのに、本来such thatを用いるべきところでso thatが用いられている、のようなケースも往々にして存在します(therebyとwherebyが混同して用いられている、というのも、似た例でしょう)。

 

このような、「書かれている内容が文法的に間違っている可能性がある」という場合の対応については、翻訳スキル、のような文脈で解説されていることはまだないと思います(自分が知らないだけかもしれませんが)。

 

本来であれば、このようなケーススタディも、公開されている明細書から作るなどして、ノウハウの1種として構築する必要があるのではないかと思います。

 

②法令用語の理解

特許明細書は法律文書ですから、当然ながら法令用語の理解も必要です。とは言っても、他の分野ほど、広く深く理解が求められるものではありません。

 

有名なもので言えば、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の使い分けですね。理解している人からするとなんのこっちゃない話ですが、知らない人は知らない内容だと思います。そして、実際に訳された明細書を読むと、「理解できていないのかな?」と思う場合も散見されます。

 

ただ、特許明細書においては、これらの接続語の構造が捉えづらいのも事実だと思います。列挙する要素が多すぎで、原文を書いている人も、読んでいる人も、どこまでが一括りになっているのかを理解できないケースです。要は、上に書いたものと同じで、「原文が不完全な場合」があることを念頭に置いた上での、適切な対応方法が求められると思いますし、そのようなノウハウはやはり、ケーススタディとして構築したほうがいいと思います(やや大げさですが、それこそ審査基準のような感じで)。

 

③技術理解

特許明細書は技術文書でもありますから、当然ながら、法律の理解と同程度に、いや、それ以上に、技術理解も必要です。

 

ただ、この技術理解というのは曲者で、特許明細書に登場する技術は多いですから、全てをカバーするのは難しいでしょう。

 

一番良いのは、対応する案件に関連する資料や書籍を読み漁る、というものですが、1人で学習して理解するには、限界があるのも事実かと思います。

 

なので、組織内では、技術に関係する勉強会(分析機器を一通り学ぶ、とか)を開催したり、フリーランス同士で、どこかの工場見学に行ってみる、という機会作りもいいのではないかと思います。

 

個人的に取り組んでみたいのは、企業が行っている細胞培養セミナー的なもの(1日ないし2日)に、お金を払って参加することですね。この分野に限らずですが、大学で実験機器や機械装置を触らずに翻訳業に勤しんでいる翻訳者は多いと思うので、「実際に触ってみる」「手を動かしてみる」というのは、大きなアドバンテージになるのではないかと思います。

 

④特許法の理解

特許翻訳、の文脈ではあまり語られることはないように思いますが、特許法の理解も、(弁理士ほどの広さ、深さまでは必要ないですが)特許翻訳者には必要かと思います。


外内であれば日本の特許法が、内外(米国出願)ではアメリカの特許法の理解が必要になりますね。

 

日本の特許法であれば、翻訳者が一番馴染みがあるのは、36条のサポート要件の部分ではないかと思います。また、17条の2の補正の制限の話も、「なぜ誤訳・訳抜けがダメなのか」ということを理解することと直結しますし、これに加えるならば、訂正の請求や訂正審判の話も、特許翻訳をする場合は、簡単にでも理解をしておいたほうがいいのではないでしょうか。

 

翻訳者であれば当然ながら、「誤訳(誤記)はだめ」「訳抜けはだめ」ということは先天的に理解できているものだと思うのですが、特許翻訳の場合は、だめな理由が正式に、法律や法的手続きで定められているのが特徴です。

 

「特許翻訳とは、特許実務における1つのプロセスである」という視点・立ち位置で、この仕事を理解できれば、他のプロセスに携わっている人のことを想像することも、容易になるのではないかと思います。特許翻訳と特許法・特許実務、という掛け合わせで、組織内で翻訳者の教育制度を構築することができれば、翻訳者のレベルも少し上がるのではないかと思います。

 

⑤特許翻訳者の教育に必要なシステムとは

上記でつれづれなるままに書き散らかしたとおり、特許翻訳には、様々な知識(の体系)が必要です。一方で、世の中に溢れている特許翻訳の指南書や講義(講座)は、あくまで翻訳としての視点、あるいは、良くても、翻訳×技術、という視点のものに留まっているように思います(私が知らないところで、もっと複合的なコンテンツが存在しているのかもしれません)。

 

一番の理想は、これらの複合的な知識体系を、翻訳実務に関わっている人が積極的に発信して、体系として構築をしていくことではないかと思います。ただ、翻訳実務に携わっている方であればこれも痛感すると思うのですが、普段自分が何を考えながら翻訳をしているのか、ということを、1つ1つ分解して言語化して示す、というのは、とてつもなく骨が折れる作業なんですよね。

 

組織の中であれば、ベテラン翻訳者さんが仕事をしている姿を見ながら、自分も盗む、取り入れられる部分を取り入れる、ということができなくはないかと思いますが、もっと大きな枠組みで、特許翻訳に携わっている人のレベルを底上げできる方法はないかな、と悩んでいます。

 

結論として、現時点で「システムはない(自分の頭では思いつかない)」という回答になってしまうのですが、この記事を読んでくださった方で、何かビビッとくるものがある方がおられれば、一度お話させていただきたいと思います。

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