「reaction」は「反応」か、それとも「反応物」か

この記事は6分で読めます

化学系の英語特許明細書(特に合成系の明細書)で、実施例で頻出するのが「reaction」という単語です。

 

この単語は、中学校の英語で習うように「反応」という意味があり、合成化学分野でも「化学反応」の意味で「反応」と訳されることが多いのですが、実際に英文明細書を多く読んでいくと、話がそう単純ではない場合が思いの外あります。

 

今回は、そんなケースをいくつか紹介すると共に、仕事やトライアルの際にどんなことを考えればいいのかをまとめました。

(なお、今回は便宜上、英文和訳のケースのみを取り扱います)

 

逐語訳しづらい、「reaction」が含まれるフレーズ

合成系の英文明細書を読んでいると一定の割合で出くわすのが、「reaction」を逐語的に「反応」と訳しづらい文章(フレーズ)です。その最たる例は

The reaction was stirred under an atmosphere of nitrogen for 20 hours.

(US3311656 A:Google patentより)

というような、「reaction」と「stir」がbe動詞で直接繋がっている表現です(この表現は、本当によく出てきます)。

 

この文章をそのまま日本語に訳すと、

「窒素雰囲気下で20時間、反応を攪拌した」

というような文章になりますが、これだと「反応を攪拌した」という日本語が意味不明なので、きちんと分かる表現にする必要があります。

 

それならば、日本語として自然なのは「攪拌して反応させた」というような、reactionとstirの位置関係を逆にすることですが、このような表現にすると今度は、「reaction was stirred」と「攪拌して反応させた」という表現が等価なのか?という疑問も湧いてきます。

 

この英文を見てみると、「reaction」が「stir」されている(受動態)状態を表していることになっているので、直訳的に「攪拌される」という意味を持つのならば、そのような動作を受けるのは「reaction」(反応、という動作/操作そのもの)ではなく、「reactant」(反応物=反応の結果得られた物質)、と考えるほうが自然ではないでしょうか。

 

つまり、英語の「reaction」は実は、「reactant」の意味で使われているのではないか?と考えられるわけです。

 

「reaction」に「reactant」の意味は含まれるか?

そうすると、ここで考えておきたいのは、「reaction」に「reactant」、つまり「反応物」という意味が含まれているのか、ということです。

これにはまず、インターネットの無料Oxford Dictionaryを使って簡単に調べてみましょう。reactionの名詞としての意味を調べると、以下のように説明されています。

NOUN
1 Something done, felt, or thought in response to a situation or event.

‘my immediate reaction was one of relief’
mass noun ‘prices fell in reaction to intense competition’

1.1reactions A person’s ability to respond physically and mentally to external stimuli.
‘a skilled driver with quick reactions’

1.2 An adverse physiological response to a substance that has been breathed in, ingested, or touched.
‘such allergic reactions as hay fever and asthma’

1.3 A mode of thinking or behaving that is deliberately different from previous modes of thought and behaviour.
‘the work of these painters was a reaction against Fauvism’

1.4 mass noun Opposition to political or social progress or reform.
‘the institution is under threat from the forces of reaction’

2 A chemical process in which substances act mutually on each other and are changed into different substances, or one substance changes into other substances.

‘a chemical reaction caused by a build-up of particular sodium salts’

2.1 Physics An analogous transformation of atomic nuclei or other particles.
‘reactions between photons and electrically charged atomic particles’

3 Physics
mass noun A force exerted in opposition to an applied force.

‘the law of action and reaction’

どうやら、reactionの中に「reactionの結果得られるもの」は、含まれていないようです。

 

念のため、自然科学系英和大辞典も見てみると

reaction
反作用、反動、反抗、反発。[物理]原子核反応、反作用、反動力。[化学]反応。[電気]反作用。[通信]再生、回生。[生理](刺激に対する神経・筋肉などの)反応。[医学]反応、反応性。[細菌・免疫]反応。[心理]反応。[生態]応働。[宇宙](噴射による)反動推進。[土壌]酸性度、アルカリ度

となっており、やはり「反応(プロセスや操作)」の意味はありますが、結果として得られる物質の意味はないようです。

 

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とすると、この英文は曖昧なので、コメントに

「reaction」は「reactant」の意味として用いられていると思われますので、「反応物」として訳出致しました

のように記載して申し送りをするのも、1つの方法と考えることができます。

 

が、ここで更に考えないといけないことは、「stir」は何のために行われているのか?ということではないでしょうか。

 

攪拌はなぜ行われるのか

この表現が曖昧なのは、reactionとstirの意味関係のはずです。「攪拌して反応させた」という意味なら、攪拌は反応のために行われるものですし、「反応物を攪拌させた」と言う意味なら、攪拌は直接反応にか関係していない、と考えることができます。

 

この問いに分かりやすい解説が行われているのが、以下の住友重機械プロセス機器株式会社のサイトです。

初級コースその2:「撹拌の目的」の具体例

 

このページの最初のあたりには、以下のような説明がなされています。

世の中で運転されている撹拌槽の内部では、化学工学で言うところの『単位操作』、つまり、「反応」「混合」「分散」「溶解」「析出」「伝熱」「抽出」「蒸発」「蒸留」等のいずれかが、必ず起こっています。
例えば、反応熱を伴う晶析操作では、「反応」と「析出」と「分散」と「伝熱」が、順番に、もしくは同時に進行しているのです。

どうやら、攪拌を行う理由はいくつかあり、「反応を行うため」という目的以外にも、いくつかの操作(単位操作)を行う目的があるようです。

 

とすると、「reaction was stirred」のような英語を見かけた際には、その文章の前後を確認してどういう意味合いで用いられているのか、ということも考えてみる必要がありそうです。上で挙げた明細書の直前の文章(同一パラグラフ内)を見てみると、以下のようになっています。

 

EXAMPLE 3

Preparation of 3-acetoxyretinyl triphenylplzosphonium chloride (IV)

34.4 g. of 3-acetoxy vitamin A alcohol prepared according to Example 2 was dissolved in 300 ml. of methanol.

To this there was added 40 g. of triphenylphosphine. 40 ml. of methanolic HCl (172 mg. anhydrous HCl/ml.) was charged to a dropping funnel and added to the stirred reaction mixture at 15-20 in one hour.

これらを読む限り、

①まず実施例2の方法で調製した物質をメタノールに溶解している

②次に、トリフェニルホスフィンを加えている

③更にメタンスルホニル塩酸(このページを参照)を滴下漏斗に満たして、攪拌混合物(②で攪拌が行われていると考えられる)に加えた(15-20の後に℃が抜けているように思われますね)

という操作が行われていることが分かります。

 

が、これだけだと「reaction was stirred」との繋がりがよく分からないので、直後の英文を読むと

The reaction mixture was used for the next step without purification.

ということが書かれているので、どうやら「reaction was stirred」によって「reaction mixture」ができる、即ち、「攪拌により反応させた」という意味で用いられているのがここでは正しいと考えるのが妥当でしょう。

 

ただ、このような表現の訳出は、前後の文脈によって変わるときがあるので注意が必要です。

ときには、「reaction mixture was stirred」のような意味で用いられているのに「mixture」が抜けていると考えられるときがあるなど、翻訳を進めていて違和感を覚えるときがあるかもしれません。

 

そういう際は今回のように、ネットで信頼のできるサイトをいくつか当たってみて、より適切な状態や操作を考えてから訳を選ぶ、という風にするのがいいかと考えられます。

 

まとめ

今回は普段の仕事で気になっている表現について、調べ方や考え方の一例をまとめてみました。参考にして頂ければ幸いです。

 

 

 

 

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  • コメント (2)

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    • 中村
    • 2018年 3月26日

    Reactantは、(反応物=反応の結果得られた物質)ではなく、反応に付される物質(出発物)ではないでしょうか。
    A substance that takes part in and undergoes change during a reaction

      • フェニックス
      • 2018年 3月26日

      ご指摘頂きありがとうございます。

      おっしゃる通り、そのような意味で用いられているようです。

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