特許検索に学会誌を活用する

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高分子学会の学会誌「高分子」の5月号が今月初頭に届いたので、時間のある時に前から読んでいるのだが、今月号は時期的なものもあり、「学会賞」の紹介がされていて、これに十数ページが割かれている。

 

最初、このセグメントは寄稿と思っていたのだが、よく読んでみると、学会誌の編者(担当者?)が受賞者の紹介をしているようで、あくまで客観的な記述がなされている。

その中で目を引いたのが、外国の研究者であるKenneth J. Wynne氏のページだ。以下、非常に長くて恐縮なのだが、学会誌の電子版より抜粋して掲載する。

 

同教授は、ポリマーの界面・表面科学の分野で新規の物理現象の発見と機構解明について著名な成果を数多く残している。

代表的な成果として、界面科学に基づいたソフトセグメントを有するポリオキセタンとシリコーン材料に関する研究が挙げられる。

これらの高分子材料において乾燥状態では親水性を示すが、湿潤状態では疎水性を示すといった特異な現象を発見し、さらにその発現機構が高分子側鎖間の水素結合の解離に由来するということを明らかにし、“contraphilic(逆親媒性)”という言葉を提唱するに至った。

また、通常、撥油性を付与することで知られているポリマーの高フッ素化という手法がポリジメチルシロキサンを側鎖に有するポリオキセタンでは、ある領域を境に低撥油性を示すといった、新奇な現象を発見した。加えて、それらの機能の発現機構について原子間力顕微鏡(AFM)を用いることで、くぼみと突起を有する相分離構造が主因であることを解明した。

さらに、近年ではポリマー表面に対する氷の接着挙動について研究を進め、40年前に提唱された理論を初めて実験的に実証するとともに、それらの知見を応用して低接着材料の開発に成功し、産業界から高い評価を得ている。

また最近では、バクテリアの生育阻害を示しつつヒト細胞には低毒性のポリマー界面の作成に成功し、機構解明と実際に抗バクテリア保護膜として応用するなど、学術的にも産業的にもインパクトの高い成果を挙げ続けている。このように、界面部位での高分子の特異な挙動と、それらの特徴を活かした材料創出に関して研究を続け、多くの業績を上げてきた。

基礎物理化学から生医学材料まで界面科学を基盤として幅広い研究領域において世界をリードする研究者である。

その成果は130編以上の学術論文、10編以上の総説、4冊以上の書籍に発表され、20件近くの特許を保有するなど、高分子材料化学分野の教育ならびに研究に多大なる貢献を果たしてきた。

変に捉えてほしくないのだが、こういう内容を読むと非常に興奮してしまうのだ。最近は特に、生化学絡みの案件(というよりも生化学プロパーの案件)を担当することも多いので、「ヒト細胞に低毒性のポリマー界面の作成」という部分に目がいった。(余談だが、ここでは「作成」ではなく「作製」のほうが正しいと思うのだが…)

 

というわけで、その特許はないのかと思って以下の検索式で検索をしてみた。

ツール:Google patents
検索ワード:Kenneth J Wynne

 

どれほど多くの特許がヒットするか分からないので、とりあえずこのワードで調べてみて、多ければ絞り込んでいこうと思っていたのだが、どうやらそれほど多くないらしい。

すると、どうやらこの特許はこれであるらしい。

https://www.google.co.jp/patents/US20130183262?dq=Kenneth+J.+Wynne&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwjSjNrBqd7MAhXEupQKHYchCs0Q6AEILjAC

(番号:US20130183262)

ざっと見たところ、病気の治療に関する課題があって、様々な修飾を行った高分子の構造と説明があって、但し書きがあって実施例があって、ということのようである。先行技術で開示されている、疎水性/親水性官能基の両方を持たせることでそれぞれの特性を共に有しながら(この部分に、両性イオンのベタインを使用)、抗細菌剤としてのシロキサン化合物を加えることによって、新規の化合物としているようだ。

 

どうやら、高分子材料寄りの化学・生化学複合案件のようであり、様々な背景知識がないと対応しづらそうな案件のようにみえる。

 

E’storageからテキストデータを引っ張り出してワード数をカウントしたところ、16000ワード程度なので、可能であれば1週間程仕事を休んで、対訳取りもしてみたいところである…。

さすがにそれはできなさそうだが、学会誌を読むことで、技術開発に携わっている科学者(化学者)の実績を知ることができ、その特許を調べて、使われている原理や技術思想を汲み取れる瞬間が、この仕事をしていての一番の至福の時なのだ。(これ自体は取引先の案件ではないので、厳密に言うと仕事ではないが…)

 

なかなか、実際の仕事をしていてここまでの感動を味わえる瞬間に巡り会えないのが自分の実力を物語っていると思うのだが、直接仕事とは関係なくとも、かような場所で偉大なる先人の知の集積に触れることができることは何にも代えがたい悦びであり、これこそが仕事の原動力になっているのは事実である。

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