翻訳者はクラウドソーシングサイトをどのように活用すべき?

この記事は6分で読めます

翻訳業といえば、一般的には翻訳会社やより上流のソークラ(メーカーなど)と直接契約をして仕事をするのが一般的で、この方法で仕事をされている人が多いと思います。

 

一方で、以前から存在下SOHO用のサイトに加えて、現在はクラウドソーシングサイトも複数存在し、これらのサイトを介してフリーランスとして仕事をする人も一定数おられるのではないかと思います。

 

僕も、特許翻訳者になる前の駆け出しの頃はこれらのサイトを使って仕事をしたことがあるので勝手はひととおりは理解しているのですが、正直な話をすると、今後フリーランスとして一定以上のレベルで仕事を続けていこうと考えているかたは、クラウドソーシングサイトは闇雲に利用するべきではありません。

 

今回は僕の経験を踏まえた考えを元に、どのようにクラウドソーシングサイトをフリーランスの翻訳者が利用すべきかについてまとめました。

 

クラウドソーシングサイトとの付き合いの変遷

僕がクラウドソーシングサイトを使い始めたのは、2013年の1月頃でした。当時は諸事情により半ば無理矢理独立をしたものの、当面の日銭を稼ぐために、翻訳会社の求人に応募をしながらクラウドソーシングサイトを使って仕事をゲットして、とりあえずのお金を稼ぐのに必死、という状態でした。

当時、初めてクラウドソーシングサイトで契約を結んで仕事をした(お金を頂いた)時の経験は忘れもしないくらい貴重なもので、今でも鮮やかに思い出すのですが、その後、1年と数ヶ月程度断続的にこれらのサイトを使って仕事をした後は、一切これら経由で仕事はしなくなりました。

 

当時の契約履歴をサイトのマイページから確認してみると、1ヶ月に1件~4件ほどのペースで仕事を契約・対応していたようです。

 

ただ、仕事を続ける中で、翻訳の場合は需給バランスが崩れ(供給側が多すぎる)、結局は過当な値段競争(値崩れ)になっていったこともあって、これらのサイトを使って仕事をしたのは、2014年の4月頃が最後になっています。

 

今振り返ってみると、あまりクラウドソーシングサイトを使って良かった点は見当たらず(もちろん、仕事をしてお金を稼げたというのはいい経験でした)、逆にこういう理由であまり使いたくないなあ、と思う点がいくつかあります。

 

それらについて、以下にまとめました。

 

クラウドソーシングサイトをオススメしない理由

①仕事の単価が(とても)安い

これらのサービスを受注側で使用されたことがある方は共感して頂けると思いますが、おしなべて、仕事の単価は安いです。

翻訳の場合、基本的には「1文字○円」で計算、見積りますが、これらのサービス上でやりとりされる仕事を見てみると、1文字3円だとか、ひどい時は1円を切る時もあります。

ちなみに、英日翻訳の場合、分野にもよりますが、エントリーのレートの目安は10円/ワードと言われています。今僕はこのレート以上の金額で当然ながら仕事をしていますが、クラウドソーシングサイトを使っていた頃からこのレートは目標にしていたので、当時は「経験が少ないから」という理由で自分の価値を不当にダンピングしていたな、と思うことはあります。

業務量に対して単価がいびつなほど歪んでいたのが、クラウドソーシングサイトの利用から身を引いた理由の一つ目です。

 

②取られる仲介手数料が高い

あるクラウドソーシングサイトだと、発注側と受注側の仲介手数料として、サービス運営側に20%のマージンが取られます(契約金額によっても違うようですが)。

例えば、発注者が10万円で仕事を依頼したとすると、受注側に払われるのは8万円。

 

つまり、仮にクラウドソーシングサイトを使って100万円分の仕事をしたとしても、手元に入ってくるお金は80万円です。もちろん、この「20万円」は「振込手数料」として経費処理できますが、それでもサイトを介するだけでこれだけもお金を天引きされてしまうのは、さすがに気持ちが萎えますよね。

 

もちろん、これらのサイトを通して良いクライアントと出会い、継続的な取引は直契約で行うようにするというのが理想ですが、サイトの方針としては「サイト外での直契約は禁止(クラウドソーシングサイトは、そのマージンで儲けていますからね)」となっていますし、万が一直契約ができたとしても、そこまで考えている発注者側が一体どれくらいいるのか、未知数な部分です。

手数料取られるくらいなら、分野を決めて会社に職務経歴書を送ってトライアルを受けて、そこで一定以上のレベルを評価してもらって仕事を直接受ける、というほうがいいですね。

これが、身を引いた理由の二つ目です。

③発注側のモラルが低い場合がある

一応何度か仕事を頂いて、クライアントにも満足頂いた僕が言うのもあれですが、発注側にもモラルのないユーザーが一定数います。

①の料金が安い、というのもそうです(対価をきちんと払う、という意識が少ない)し、仕事の指示が曖昧だったり、後から追加要求が沢山ある、などです(追加業務については別料金を請求する、というのが然るべき対応ですが、このようなサイトを介して行う場合、「追加業務は追加料金」という契約を当事者の間で結ぶ人がどれくらいいるのか、あるいは、構造的にどうしても下請けとなるので、お金のことを言い出しにくいフリーランスの方もいると思います)。

翻訳の場合、基本的に文字数ベースで見積りを出しますが、仕事によっては、翻訳するページの文字数のカウントができなかったり(PDFファイルしか支給されない、あるいはウェブページの翻訳で原稿がない。せめてテキストベースやワードで原稿を用意して頂きたい)、見積りの段階で原稿が渡されないので、内容が把握できない(秘密保持契約の観点から難しいのかもしれませんが、それでも、受ける側としてもある程度の内容や言葉の運びは事前に知りたいもの。)、といった風に、仕事のトランザクションでものすごいエネルギーロスが発生します。

もちろん仕事なので、このような面倒なことがあるのは百も承知ですが、見積り時にそのような心遣いや配慮が見られないと、気持ちよく仕事もできません(これに、単価の安さや仲介手数料等をあわせると、気乗りがしません)。

こういう時はこちらから「サンプルを渡して頂けないのでしょうか」と聞く時もありましたが、大概「別データで持っていない」というようなそっけない返事しか返って来ないため、いつからか諦めるようになりました。

 

また、これはモラルとある程度関係があると考えていますが、大口の顧客(発注者側)が多くはないことも重要です(分野によって異なる場合あり)。

 

大口の顧客と契約ができれば継続的に仕事ができるのですが、残念ながらクラウドソーシングサイトでの発注者側は単発の仕事を依頼する小口の顧客、あるいは予算が少ない(あるいはお金をかけて質のよい成果物を受け取る必要が無いか、よいものを手に入れるにはお金をかけないといけないということが分かっていない)顧客が相対的に多いです。

 

このような状況では、仕事を続けていこうにもなかなか難しい点がありますよね。単発の仕事を何度も応募しないとまとまった収入にはなりませんが、その労力もバカになりませんし、あまり賢い戦略とは言えなさそうです。

 

この、発注者側のモラル(というか、こちらが気持ちよく仕事をできるかどうか)という点が、身を引いた三つ目の理由です。

④需給のバランスが取れていない

これは上にも書きましたが、翻訳だと比較的、「英語ができれば誰でもできる」と思われている節があるのか(このテーマについてはまた、別の機会に連載で意見を伸べることができればと思います)、出される見積りの数が特に多いです。

発注側としては、その多数の中から一人取引先を選ぶわけですが、結局は「どれだけ安い値段でできるか」が重要になって来るわけです(私が発注側だったら間違いなくそう考えます)。

 

もちろん、応募の時点で実績一覧を確認して最終候補数名が選ばれると思うので、応募の時点で候補として認識してもらえるようなアピールをすればいいのですが、それでも、手数料や単価の低さを考えると、エネルギーを注ぐ方向が見当違い、と言うこともできます。

 

これが、ぼくが身を引いた理由の四つ目です。

 

クラウドソーシングサイトの利用は無意味?

では、これだけ「使うことをオススメしない理由」を挙げたということは、これらのサービスは利用しないほうがいいのでしょうか。

 

個人的には、基本的に利用しないスタンスを貫きながら、場合によっては情報収集や「発注側」としてこれらのクラウドソーシングサイトを利用してみるのがいい、と考えています。

情報収集にサイトを利用する

これは、クラウドソーシングサイトでの仕事の実態はどれくらいなんだろう?ということを実際に知ってみるのに有効な方法です。

例えば、この記事を書いている2017年7月4日の時点で、某クラウドソーシングサイトで「翻訳」の仕事を検索してみました。

 

すると

結果の上からいくつかは、このようになりました。

 

これらの仕事情報を見るだけでも、どれくらいの分量に対して報酬はいくらくらいなのか、それを1ワード(1文字)あたりに計算すると単価はいくらくらいなのか…ということが分かりますね。

 

これらの情報を調べて、「自分のスキルと時間はこの値段では売れない」と思うなら、クラウドソーシングサイトを使う必要はありません。ただ、「まだ経験もないので、実際に仕事ができるのかどうかを試してみたい」という方は(時間的にも精神的にも余裕がないと無理だと思いますが)、応募をしてみるのもありかもしれません。

 

あるいは、仕事の情報ではなく「フリーランスの見せ方」についての情報収集にも、これらのクラウドソーシングサイトは利用することができます。

 

適当に仕事を選んで、応募者の一覧を確認します。その中で実績が多い人や経歴が似ている人をチョイスして、どんな実績があるのか、どんな風にキャリアサマリをまとめているのか、と、売り込みのための自分の職務経歴書や実績一覧の書き方について学ぶことも、視点を変えれば可能ですね。

 

発注側として利用してみる

クラウドソーシングサイトは受注側ではなく発注側として使え。これは個人的に、学ぶ点が多いと言えます。

僕は実際に、特許翻訳の仕事を始めてから、納品書類の体裁を整えるための処理プロセスについてのマクロを、クラウドソーシングサイトを使って外注に出して作って複数もらいました。

 

これは、自分がマクロの正規表現や、それらを組み合わせての処理を作ることについてあまり明るくなく(秀丸などの、最低限の正規表現を知って使えるくらいです)、腰を据えてゼロから勉強するための時間もないので、お金を使って優秀な外注者に頼んだわけです。

 

自分で仕事を発注すると分かりますが、フリーランス(受注者)に対して

・どんな成果物が欲しいのか

・納期はどれくらいで

・希望予算はいくらくらいで

・他に対応してもらいたい内容はどういうのがあるのか

ということを上手く伝えて、そしてしっかりと相手に対応をしてもらう必要があります。

 

応募をかけてみると、自分では安い金額かな、と思っていても応募がおおかったり、応募者の経歴を見て頼んでみたい、頼みづらい見せ方・伝え方をしている人もある程度分かることと思います。これら一連の作業は、何を隠そう、あなたが翻訳会社の求人を応募する時に、会社の担当者が対応する仕事そのものです。

 

自分がフリーランスとして求人に応募する時にはあまり気にならなくても、発注者側としてフリーランスを選ぶ時は、案外相手の細かい部分が気になってしまうこともあると思います。フリーランスの自分を客観的に見つめるのに、クラウドソーシングサイトを使って仕事を発注する側に回ってみるのは、大きな気づきを多く得る機会となるでしょう。

なお、自分が対応している翻訳業務を更に別の外注に出すのは、取引先との契約で禁止されていることが普通なので辞めましょう。

発注側として応募してくる翻訳者から学びたい場合は、自分のブログ記事を英語に翻訳してもらうような仕事を作って、クラウドソーシングサイトで募集をしてみるのがいいかもしれません。

 

まとめ

いかがでしたか。今でも、フリーランスをしている人の中には「クラウドソーシングサイトを使って仕事をしています」という見せ方をしている人もいますが、個人的には、上に書いた理由から、今はこれらのサービスを使って仕事はしていませんし、キャリアの積み上げや展開、勉強時間の確保といった点からも、これらのサービスをバカ正直に利用することについては懐疑的です。

 

今回は、受注者以外の方法・視点でこれらのサービスを利用する方法をまとめました。特許翻訳者の方もそうでない方も、是非ご参考にして頂ければと思います。

スポンサードリンク
jiyuugatanookite.com

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

関連記事

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

翻訳者の手元に一冊:翻訳ツール大全集

翻訳者の手元に一冊:翻訳ツール大全集
翻訳者向けパソコンはカスタマイズ発注可能なマウスコンピューター。

記事の編集ページから「おすすめ記事」を複数選択してください。