今回は、法令用語の話をしたい。
これら2つの言葉は、日常会話や日頃目にする文章では特に使い分けを意識する必要はないが、特許明細書をはじめとする法令文書では、似て非なる意味合いを有することを理解しておきたい。
[ad#ad-1]①例示を表す場合は「その他の」を用いる
明細書の例ではなく恐縮なのだが、例えば
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では、以下のような具体例が用いられている。
「内閣総理大臣その他の国務大臣」
「俸給その他の給与」
「委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員」
これらの例からも分かるとおり、「その他の」は、その後に続く、より包括的な(広義な)言葉の具体例を指す際に用いられる。
特許明細書で言えば、さしずめ「塩素その他のハロゲン」「塩酸その他の強酸」「エチル基その他のアルキル基」のような表現であろうか。
②並列関係にある場合は「その他」
こちらも、上記の本の例を拝借すれば以下のようなものがある。
「勤続期間、勤務能率その他勤務に関する諸条件」
「賃金、給料その他これに準ずる収入」
特許明細書では、例えば「時間、速度その他測定に必要なパラメータ」といったような文章が考えられる。
ただ、このルールを特許明細書の翻訳に厳密に適用できるのかどうかと言えば、答えは簡単ではない。
例えば、Google patentを使って以下のようなタイトルの明細書を検索した。
3-hydroxypropionic acid and other organic compounds
(US7186541B2)
初見では、並列を表す「and」があるため、ここでのotherは「並列の『その他』」を意味すると考えられるので、ルールに則って訳すのであれば
3-ヒドロキシプロピオン酸及びその他化合物
とするのが妥当であろう。
しかし、よく考えてみると、3-hydroxypropionic acidはorganic compoundsの具体例でもあるわけだから、①のルールを適用することも可能なように思える。
3-ヒドロキシプロピオン酸その他の化合物
ネットで、「特許明細書内で『その他』と『その他の』は使い分けされるのか」というようなことをあれこれ調べてみたのだが、納得のいく説明が行われているサイトなどは見つからなかった。
知財弁護士のこちらのブログには、有斐閣の法令用語辞典を参照して「混同される場合もある」と書かれているが、これは特許明細書ではなく、条文の表記に関する解釈だ。
もしかすると、特許明細書でもここまで厳密には考えられていないのかもしれない。せっかくなので特許情報プラットフォームを利用して、「その他の」が用いられている明細書を探してみたのだが(「その他の」だけでを全文検索するとヒット数が多すぎるので、適当に他のキーワードを織り交ぜて母数をうんと減らした)、そこで見つけたのは、以下のような日本出願の明細書だった。
ここで、ポリベンズイミダゾール系化合物の構成要素であるベンズイミダゾール系結合ユニットや、スルホン酸基および/またはホスホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸結合ユニットや、スルホン酸基もホスホン酸基も有さない芳香族ジカルボン酸結合ユニットや、その他の結合ユニットは、ランダム重合および/または交互的重合により結合していることが好ましい。
(特開2007-77400(P2007-77400A)/スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物の製造方法/東洋紡績株式会社)
また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。
(特開2006-344589(P2006-344589A)/高分子電解質およびその製造方法、燃料電池用電極、電極膜接合体ならびに燃料電池/富士フイルムホールディングス株式会社)
これらでは共に「その他の」が使われているが、これらの文章では、「その他の」の前後は概念の並列となっているから、「その他」を用いるのがルールとしては適切だと思われる。
では、最初に挙げた「プロピオン酸」の場合はどう訳すか、という話になるが、これは「and」があるために「プロピオン酸」と「化合物」は並列で扱われている、と解釈して対応するのが妥当であるように思える。
(或いは、クライアントに正しい対応方法を確認するのがよいのだろう)
むしろ、特許翻訳の実務で必要なのは、和訳の場合、単独で出てくる「other」(Other embodiment illustrates…等の文章)は「他の」の訳すようにする、ということかもしれない。むやみに「その他の/その他」を使ってしまうと、そもそも法令用語のいろはすら理解していないように誤解されてしまいかねない。
なお、上のブログで引用されている有斐閣の辞典とは、こちらである。
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