新しい仕事が「異議申し立て」に関するものだったので

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今度、普段行っている明細書とは違う、「異議申し立て書」の翻訳に関係する仕事をすることになりました。

 

年末に翻訳する書類は手元に取り寄せることができたので、仕事の間に読んでいたのですが、そもそも「異議申し立て」とは何なのか、何のために行うのか、といったことまで全然分からなかったので、ここにまとめておきたいと思います。

 

「異議申し立て」とは?

「異議申し立て」とは「特許異議申立制度」のことで、

特許付与後の一定期間にわたり、広く第三者に特許の見直しを設ける機会を付与し、申立てがあったときは、特許庁自らが当該特許処分の適否について審理し、当該特許に瑕疵があるときは、その是正を図ることにより、特許の早期安定化を図る

という目的で設けられている仕組みのことです。僕は最初、訴訟関係の制度かと思っていたのですが、全然そうではなくて、

・特許を公に触れさせて、ある種のフィードバックループを設ける

・手続きを行うとはあくまで特許庁

というのがポイントのようです。

異議決定書を読んでみて思ったこと

仕事に直接関係するのは、異議決定書という「こういうフィードバック(ツッコミ)が第三者から入りました。色んな情報を元に特許庁が考えた結果、問題となる特許は、そのまま特許を得ることができるのか、それとも問題があるので特許は取り消しする必要があるのかを判断しました」という、報告書みたいなものなんですよね。

こういう書類は今まで読んだことがなかったので(厳密に言うと、年末にその書類を調べられるデータベースに登録してみて調べたのですが、文章が長すぎて分からんわ、となって一旦放置した)、実際に仕事に取りかかる前に一通り読んで、気になる点がないか入念にチェックしておこう、ということで、今日2時間くらいかけて、調べ物をしながら読んでみました。

以下は、異議決定書を読んでみての感想です。

①原典となる明細書に当たらないとダメ

異議決定書には、問題になっている特許番号と、問題となっている明細書の箇所(いちゃもんを付けられた場所)の説明と引用はなされるんですが、慣れないうちは、それだけ読んでも「問題となっている特許の全体像」が掴みづらいので、ある程度場数をこなすまでは、原典を調べて、決定書に引用されている箇所にマーカーを引きながら、対応関係を丹念に確認しながら読む必要あるな、と思いました。

②特許法の条文も確認したほうが良い

異議の申立は、特許法に則ってされるので、決定書の中にも「特許法●条の規定によりうんたらかんたら」という説明がよく出てきます。

これは、問題となっている特許の新規性、進歩性はどうなのか?という話に関係してくるので、その際に必ず、(説明として)考慮すべき特許法の条文の番号が記載されているんですよね。

特許法の条文は、僕の場合は知子の情報に途中までまとめていたので、調べられるものについてはそこで調べて確認したんですが、まあこれも、特許法の条文だけを読んで全て理解できるものでもないので(その条文の中で、別の条文との関係について説明されているものもあるので、適宜そちらも確認する必要がある)、ざっくりと「だいたいこういうことを言っているんだな」「これがテーマなんだな」ということを頭に置いた上で、とりあえず先に進む(決定書を読み進める)のが良いのかな、と思いました。

③「異議決定書」は、明細書以上に読解力が必要な文章である

「異議決定書」に書かれていることは、すごくかいつまんでいうと

・こんなツッコミがありました

・特許法の条文ではこう書かれています

・他に手に入る参考資料(他の明細書や論文)の、この箇所にはこういうことが書かれています

・(既に世に出ている特許との兼ね合いが問題になっている場合)、世に出ている特許と問題の特許は、ここが共通していて、ここが違っています

・参考資料や一般常識から鑑みて、問題の特許に新規性や進歩性があると言える(又は言えない)という結論が出せます

のようなことが、ひたすら書かれています。

 

このときに必要なのが、論理的思考と読解力。いわゆる「現代文を読み解く力」とでも言うべきものでしょうか。

 

1つの異議決定書の中に出てくる、おびただしい数の参考資料や文献の引用箇所と、問題となっている明細書の問題となっている箇所を対比しながら、決定書で説明されている因果関係や推論を丹念に追って、きちんと自分の頭で「ここに書かれていることは筋が通っている」と、理解できる必要があります。

 

これ、特許明細書そのものを読む、あるいは翻訳する場合だと、例えば「当業者の常識に照らし合わせて問題があるのかどうか」というのは、明細書「だけ」を読んでも分からないことだってありますし、正直翻訳をするのであれば、そこまで問題にならないと思います(実際に翻訳をしていて問題になるのは、原文の誤記や明らかな付番のミスといった内容です)。

 

なんというか、明細書そのものを読む、翻訳する上では、そこまで論理的思考力や類推力といったスキルは必要ないように思います(ある程度の数、明細書を読んでくると「だいたいこういうことが書かれている」とか「ここまでは書かれない」みたいなのが、勘として分かってくるのもあると思います)。

 

 

が、異議決定書については、問題となっている特許と他の資料の比較や、書かれている内容を踏まえての論理展開がほぼ内容の全てになっているので、ここをきちんと抑えられないと、書かれていることの論旨を追っていけずに意味不明になる、という印象を受けました。

 

(明細書の場合、化合物や原料の例示が続くこともありますが、異議決定書については、そういう箇所は一切ないので、「軽く読み飛ばす」ことができる箇所がほぼない、というのも、慣れないこともあってすごく負荷を感じました)

 

あとは、「上記を鑑みると、当該特許は、先行特許と比較して新規性がないとはいえない」といった、日本語でよく見る二重否定の文章も多いですね。これ、ざっと読むだけだと「どっちなの?」と思ってしまって頭がこんがらがってしまうので、特に最初のほうは、最初から最初まで、決定書は印刷して、ゆっくり読み進めるのがいいんじゃないかと思いました。

 

 

まとめ

今回、一通り異議決定書を読んでみて思ったのは、すごく知的刺激を覚える、というものでした。まあ、これは普段、似たような分野の明細書をひたすら、同じ言語方向で翻訳しているが故のマンネリに起因するものではないか、と思っているのですが、今年はもう少し、訴訟や申立関係の、明細書以外の翻訳の仕事にも取り組めないか、あるいは、これまで取り組んでいない、(脳に良い負荷がかかる)仕事にも手を広げられないか、ということを考えるきっかけにもなりました。

お金をひたすら稼ぐのもいいですが、時には気分転換で、こういう新しい世界を、仕事を通して覗いてみたいものですね。

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  • コメント (1)

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    • piyo
    • 2020年 2月23日

    はじめまして。特許事務所の翻訳部門で翻訳をしている者です。
    私も、ここ最近、異議申立て関係の翻訳を経験して、全く同じことを感じました。
    ふだんは拒絶理由通知などの簡単な翻訳の方が多いですが、
    異議申立ての翻訳を経験して、知的好奇心が刺激されました。

    やはり、技術を十分に理解し、技術的側面だけでなく法律的側面からも
    よく考えて翻訳しないと失敗すると思い、かなり時間を費やしましたが
    異常なほど勉強になり、達成感がありました。

    異議申立てで引用される文献も、レベルの高い高度なものが多く、
    文献を読んでいるだけでもとても面白いお仕事でした。

    最後に、ブログを読ませていただき、共感できる内容が多く、
    いろいろ参考にさせていただいています。
    ありがとうございます。

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