接着剤の奥深さにようやく気づいた

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ここ数回の記事では、リン脂質二分子膜やら生体適合性高分子やら、どちらかといえば生化学・生理学寄りの内容を軽く書いていたのだが、今担当している仕事は接着剤なので、今日は仕事の関係で、接着剤関係の資料を読み直したり、新しく調べてストックしていたりした。

 

私は特許翻訳に参入した頃にざっと接着剤関係の勉強をしてはいたのだが、仕事でそれほど多く担当をしたこともなく、そこまで細かい部分まで突っ込んでやっていたわけではなかったのだが、今日色々資料を読み直していて、こんなにも接着剤の世界が奥深いとは思わなかった。

 

 

まず、接着といっても大きく分けて二通りの方法がある。

1つは、身の回りでよく目にするような、紙を水で濡らすとテーブルにくっついたりするような「濡れ」を利用したものや、或いはファンデルワールス力を利用した「物理的接着」があり、例えば「ヤモリテープ」は、基材上に微細構造を設けることで接着力を付与する、物理的接着剤である(というよりも、接着テープと言った方が適切か)。

 

もう1つは、接着したい物質同士を架橋等の方法によって結合させる「化学的接着」を利用した接着剤である。我々が普段目にする接着剤の多くはこちらに分類されるが、例えば「エポキシ接着剤」や「一液型接着剤/二液型接着剤」のような、よく耳にする単語は、全てこれらの化学的接着を利用したものである。

 

で、一言で「化学的接着」と言っても、その機序には様々あって、例えばこちらのホームページを参照にすると、

 

化学的接着にも材料の種類で「無機系」と「有機系」に分けられ、有機系でも天然材料と合成材料を用いるもので2つに大別される。

 

そして、合成系1つを取り上げてみても、

 

①室温で自然に硬化する「室温硬化型」

②加熱により硬化する「加熱硬化型」

③熱を加えると成分が溶けて接着する「熱溶解型」

④物理的力を加えることで反応が起こる「感圧型」…

 

のように、幾つも種類があり、①の中でも、成分中の水が蒸発することで接着性が付与されるものや、別に添加剤を加えることで反応が進行するもの、空気中の水分と反応して接着反応が起こるものなど、バラエティに富んでいることこの上ない。

 

私が現在担当している内容は、これらのうちの当然1つであるわけだが(詳しいことは書けないが…)、今改めて、「接着剤」と一言でいっても、様々な原理が用いられていることに唸ってしまったのである。

 

例えば、接着剤の成分は、合成材料系であれば高分子であるから、それらについての背景知識が必要となるし、その合成のためのプロセスの話も出てくるから、その場合はラジカルを用いるのか、アニオンを用いるのか、といった、理論化学の色合いも濃くなる。

高分子材料といっても、こちらのページにあるように、炭化水素系主鎖を有するものもあればシリコーン材料を用いるものもあるし、様々な官能基も用いられる。

また、重合においては乳化や懸濁を行うものもあるから、その時にはコロイド化学や界面活性剤の話も出てくるであろう。

 

或いは、熱により反応が進む場合は、熱が化合物に与える影響を理解しておく必要があるから、これは熱力学の話も関係してくるし、接着力を調査・評価する際には、粘度やレオロジーといった話も当然出てくるわけである。応力ひずみや剪断の話となると、これらは完全に物理学の話が絡んでくる。

 

まあ、改めて文章化してみると、言われてみればどこまでいっても当然で当たり前のことにすぎないように我ながら思ってきたのだが、なんというか、私の部屋にもある、あの小さな接着剤の容器から、これだけ様々な化学現象、物理現象にまで話が関係していることを改めて知ると、一言で「接着剤」といっても、とてつもなく奥が深いし、この分野だけでもいくらでも新しいことを学べてしまうな…ということに、改めて感銘を受けてしまった。

 

仕事柄、というか自分の興味・関心がある分野の関係もあり、私はどうしても化合物の構造や化学反応の話をメインで考えてしまい、先日の「表面改質」の話をしてしまったりするのだが、もっと別の物理現象や技術思想も探求して、別の視点か特許明細書を読めるようにしないといけないなあ、というようなことを考えてしまった。

 

 

とりあえず言いたかったのは、「接着剤は奥が深い」ということである。

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