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「~に応じて」の訳し方は、この言葉の前後の対応関係がどうなっているかで判断できるのではないか

英語・英語表現

日本語の明細書を英語に訳すときによく出てくるのが、「~に応じて」という言葉です。

 

「~は~に応じて選択される」「~は~に応じて変化する」「~は~に応じて制御される」みたいな構造で、化学系、機械・通信系の明細書でも沢山目にするかと思います。

 

この「~に応じて」は、直訳すれば最初に頭に浮かんでくるのが「depending on」だと思うのですが、それ以外にも「in accordance with」というのもあって、ネットに出ている情報を調べていると、この2つの言葉の使い分けが必要、といった内容にまとまっていることがほぼ100%になっています。

 

例えば、「翻訳のヒント」や、この内容をベースにしたブログなど。

 

が、この「翻訳のヒント」の説明を読んでみたんですが、具体的な違い(辞書の引用など)が何一つ書かれていなくて、「ニュアンスが分かれば」という、読者自身が解決してください、という投げやりな(?)姿勢がなんとなく伝わってきていて、この記事を読んでも私は全然理解できませんでした。

 

が、この「~に応じて」は、明細書の英訳だと1件の中で必ず出てくるであろう、というくらいに使用頻度の多い言葉だと思いますので、自分なりの見解と仕事での対応策について、まとめておきたいと思います。

 

なお、この言葉の第一候補の英訳である「depending on」は、文法的な側面からの用法の制限や解釈の余地についても、「科学論文の英語用法百科」にまとめられているような問題を孕んでいるのですが、この解釈については、ここでは「depending onが副詞的に、主節の動詞を修飾することは、文法の視点から厳密に考えると誤りであるが、オリジナルが英文の明細書を読んでいてもこの用法が多く用いられているため、慣習的に許容範囲」という立場を採って、以下の話を進めていきたいと思います。

この文法的な問題については、「科学論文~」の中にまとめられているため、興味があるかたはそちらをご覧下さい

 

 

「~に応じて」に多くの場合対応するであろう「depending on」と「in accordance with」の違い

「~に応じて」に対応する英語表現は、多くの場合「depending on」か「in accordance with」のいずれかになると思います。これら2つの違いについては、「翻訳の泉」というサイトに詳しく載っています。

 

以下、まずはこのサイトの内容を参照して、これら2つの英語表現の語義の違いについて考えていきたいと思います。

 

まずは、「depending on」について記載されている箇所から。

- - - -(以下引用)- - - -

depending on (upon) は、as a function of の第2の用法とほぼ同じで、on以下の内容によって結果が左右されると言う意味です。”によって”は様々な意味があるので、「~に応じて」と訳すのが適切です。

例文11


For example, an electrical signal generated from a human voice may vary in signal strength depending on the person being recorded, the language used, and the position of the speaker with respect to a microphone.
例えば、人間の音声から生成された電気信号は、録音された個人、使用言語、話し手のマイクロフォンに対する位置に応じて変わることがある。


例文12


In the case of meat-producing animals, feeding uncontaminated feed may only be necessary close to the time of slaughter since the biological half-life of radiocaesium, for example, is of the order of two to four weeks depending on the species.


食肉動物の場合、屠殺の前に汚染されていない飼料を与えるだけでよい。たとえば放射性セシウムの生物学的半減期は、種に応じて、2~4週間程度だからである。


in response to は”に応じて”と訳す人もいますが、depending on とは意味が全く異なります。ある事象が発生したとき、それに対する反応としてある動作が行われると言う意味です。これはwhenで置き換えても意味は通じますが、depending on は when で置き換えることができません。科学技術関係のものでは電気等の訳語”応答”を利用して「~に応答して」と訳します。”~に呼応して””に反応して”と訳す人もいます。

例文13


The sensing element measures temperature and actuates the contacts in response to thermal variations. Switches may open or close on temperature rise depending on their internal construction.
感知素子は、温度を測定し、温度変化に応答して接点を動作させる。スイッチは、その内部構造に応じて、温度上昇時に開くまたは閉じることができる。

 

- - - -(以上引用終わり)- - - -

 

続いて、「in response to」について記載されている箇所です。

- - - -(以下引用)- - - -

例文4A


In accordance with the principles of the present invention, the number of bits per coefficient, as a function of the subband, is a tunable parameter that can be adapted to the needs of the specific applications, as described below.
本発明の諸原理によれば、サブバンドの関数としての、係数1個当たりのビット数は、調節可能なパラメータであり、下記で論じるように特定の応用例の必要に適合させることができる。

(中略)

例文14


Each Bank may at its discretion submit a Competitive Bid containing an offer or offers to make Bid Loans in response to any Invitation for Competitive Bids.
各銀行は、競争入札の募集に応じて、自己の裁量で、融資入札の申込みを含む競争入札を提出することができる。


according to は、典拠や判断の根拠を表します。”によって”とも訳せますが、「~に従って」と訳す方が明快です。語頭に来る場合は、”は”を付けて訳さなければなりませんが、”に従えば”はやや不自然で、「~によれば」と訳すしかありません。また連体修飾の場合も”に従う”はやや不自然なので「~による」とします。in accordance with もほぼ同様の意味です。pursuant to も意味は同じですが、より硬い表現で、主に法律、契約などに用いられます。「~に則って」「~に準拠して」と訳せることもあります。

(中略)

例文16


If the President is absent or indisposed, one of the Vice-Presidents shall take his place in accordance with the procedure laid down by the Administrative Council.
総裁が不在または職務不能の場合は、理事会が定める手続に従って副総裁の一人がその職務を代行するものとする。

例文17


Appropriations shall be set out under different headings according to type and purpose of the expenditure and subdivided, as far as necessary, in accordance with the Financial Regulations.
歳出予算は、支出の種類と目的に従って異なる標題の下に記載し、必要な限り、財政規則に従って細分するものとする。

- - - -(以上引用終わり)- - - -

 

少し長くなってしまいましたが、「翻訳の泉」にまとめられている両者の説明と用例は、それぞれこのようなものなんですよね。

 

 

「~に応じて」の意味の違いを的確に捉えるには

ただ、上に挙げた例と説明だけを読んでも、日本語で書かれている「~に応じて」を、的確に訳し分けることは簡単ではないと思います。言語方向が逆なので、いくら英語のニュアンスの違いを理解しても、日本語で書かれている文のニュアンスの違いも理解しないといけないわけですから。

 

で、いくつかブログやサイトを参照してみたのですが、それらの説明では、「~に応じて」をどうやって訳すのか(あるいは「depending on」と「in accordance with」のどちらを使うのが正しいのか)については、納得のいく説明がされているとは私は思いませんでした。

 

自分の場合、英文を読んでも、「~に応じて」と書かれた日本文を読んでも、ニュアンスの違いは感覚的に理解できていると思うけれど、それを上手く言語化はできていない、という状態でした。かつ、参照したサイトなどの説明を読んでも違和感を覚えた、あるいは不十分に思えたので、恐らく自分が持っている感覚と、既に言語化されている説明との間にズレが生じていたのだと思います。

 

 

さて、あまり焦らさずに書くと、色んな説明で用いられている例を読んでいて、自分なりに「depending on」と「in accordance with」(厳密に言うと、これらの表現が用いられている文章の、前後の繋がりの違い)について、ある程度正確に言語化できるようになりました。ので、それを以下にまとめたいと思います。

 

端的に言うと、日本語の文章で「~に応じて」が用いられている場合、この言葉の前後が表す関係は、2つに分かれると思います。

 

分かりやすくするために、「(主語・主題)は、Aに応じてBする(される)」という構造を用いましょう。

 

 

どういうことかというと、この「(主語・主題)は、Aに応じてBする(される)」という表現で表せる内容は、以下の2つに大別することができる、ということです。

 

1つめは、AによってBが一義的に決まる、というもの。

2つめは、AによってBが一義的に決まるものではない、というもの。

 

どういうことでしょうか。

 

例として、日本語で書かれた特許明細書(特許第6234819号・エイディーテクノロジー株式会社、発明の名称「通信システムおよび端末装置」)で用いられている、「~に応じて」文を見ていきたいと思います。

 

一応、請求項1だけ最初に載せておきます。

【請求項1】
互いに通信可能な複数の端末装置を備えた通信システムであって、
各端末装置は、
ユーザが音声を入力すると該音声を音声信号に変換する音声入力変換手段と、
前記音声信号 に対して、ユーザが音声を入力した位置を表す位置情報を付加した音声信号を他の端末装置を含む装置に送信する音声送信手段と、
他の端末装置にて送信された音声信号を受信する音声受信手段と、
受信した音声信号 のうちの前記位置情報が予め設定されたエリア内である音声信号を再生する音声再生手段と、
を備え、
前記音声再生手段は、再生が完了していない複数の音声信号が存在する場合、各音声信号に対応する音声が重複しないように整列させてから再生する、通信システム。

 

この明細書の中では、例えば以下のような「~に応じて」文が出てきます。

【0021】
また、上記いずれかの通信システムにおいては、各端末装置は、自身の位置情報を取得し、該位置情報を自身の端末装置から送信する音声信号に対応付けて他の端末装置に対して送信する位置情報送信手段と、他の端末装置にて送信された位置情報を取得する位置情報取得手段と、再生される音声に対応する端末装置の位置と自身の端末装置の位置との位置関係に応じて、音声再生手段によって音声を再生する際に出力される音量を制御する音量制御手段と、を備えていてもよい。

(中略)

【0028】
また、一定時間毎、一定の音声信号再生数毎、或いは、端末装置の位置に応じて、広告を音声で流すようにしてもよい。

(中略)

【0065】
衝突/転倒センサ59は、車両が外部の物体(他の車両を含む)に衝突した状態や、車両が転倒した状態など、車両が事故を起こした可能性の高い状態を検出する。衝突/転倒センサ59は、車両に強い衝撃(加速度)が生じたことを検出するセンサとして構成することができる。なお、衝突した状態と、転倒した状態と、を独立して検出するようにしてもよい。例えば、車両(車体)の傾き度合いに応じて転倒状態か否かを判定してもよい。

(中略)

【0125】
続いて、再生される音声の配信元に対応する端末装置31~33の位置(発声位置)と、自身の端末装置31~33の位置(現在地)と、の位置関係に応じて、音声をスピーカ53から再生する際に出力される音量を設定するスピーカ設定処理を実施し(S807)、設定された音量でS805の処理にて生成された音声メッセージを再生(再生を開始)する(S808)。

(中略)

【0142】
再再生処理では、図14に示すように、まず、指定の音声パケットを選択する(S1011)。この処理では、再生中の音声パケット又は再生直後の音声パケット(再生終了後基準時間(例えば3秒)以内)を現在再生中の音声パケットの再生開始後の時間に応じて選択する。

(中略)

【0207】
また、上記通信システム1では、端末装置31~33の位置に応じて、広告を音声で流す

 

やや長くなってしまいましたが、上記に挙げた「~に応じて」文の前後関係を見てみると、文章の結果は、「(動詞で)~する」という行動を、一義的に決めています。

 

これに対して、先ほど述べた「AによってBが一義的に決まらない場合」というのはどういうものかと言うと、化学系の明細書でよく見られる

・被覆表面の硬度は、紫外線照射時間に応じて変化する

・使用可能な添加剤は、用いるポリマーの極性及び化学反応条件に応じて異なってよい

のような、文章が、特定の動作や状態をピックアップしないものと言うことができます。

 

このように、「(主語)は、Aに応じてB」文は、

・AによってBが一義的に決まる(AがBを行うための条件になっている関係にある)

・AによってBは一義的には決まらない(AはA1、A2、A3…のように更に細分化され、この細分が、B1、B2、B3のような変化をもたらす)

 

という、2種類として用いられることが大半ではないかと思います。

 

そして、後者の表現では、「(主語)は、Aに時間依存的に変化する」のように用いられることもあります。こういう際は、[the subject] changes in a time-dependent manner such that…のように言い表すこともできるため、後者の意味で「~に応じて」が用いられている場合は「depending on」を用いるのが、それ以外の、「~に応じて選択/決定/制御する(される)」といった関係に なっている場合は、「in accordance with」を用いるのが適切なのではないか、と思います。

 

例えば、上で引用した明細書の【0207】は、

【0207】
また、上記通信システム1では、端末装置31~33の位置に応じて、広告を音声で流す。

[0207]

Moreover, an advertisement is acoustically broadcast(broadcasted) in accordance with the location of the terminal devices 31 to 33 in the communication system 1.

のように、これに対して、「被覆表面の硬度は、紫外線照射時間に応じて変化するという文章であれば、”the hardness of the coated surface changes depending on the UV-irradiated duration”のように表現するのが適切ではないでしょうか。

 

まとめ

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