「作成」と「作製」の違い

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特許明細書を読んでいる、あるいは訳している際によく出てくる言葉が「作成」と「作製」です。これらの言葉は、英語では共にpreparationが用いられることもあり(他にはcreation等もありますが)、日本語母語話者の中でも使い分けがきちんとできていない、あるいは同じ意味で用いられている、と考えている方も多いのではないでしょうか。

 

今回は、特許翻訳に関係する話としてこれらの言葉の違いについて整理をしました。

 

「作成」は無形物に、「作製」は有形物に用いる

「作成」と「作製」の違いは、一番分かりやすく言えば無形物に用いるのか、あるいは有形物に用いるのか、ということです。

 

手元にある広辞苑第六版(CD-ROM版)でこれらの言葉を引いてみると、

 

さく‐せい【作成】
書類などをつくりあげること。「案文を―する」「契約書の―」

さく‐せい【作製】
ものをつくること。製作。

という説明がされています。「有形物」「無形物」という表現は厳密ではないかも知れませんが、分かりやすく言えばデータや書類、あるいは計画等に対して用いるときは「作成」を、何か具体的な物(機械や物品)に対して用いるときには「作製」を使う、という風に考えることができます。

 

特許庁データベースで実際に調べてみる

次は、特許明細書ではどのように使われているのかを実際に調べてみましょう。

特許庁データベースのトップページにアクセスをします。

 

今回は、日本企業が出願している日本語明細書で確認をしてみることにします。これは、英語の訳文だと誤訳が含まれる可能性があるので、できるだけ原文が日本語(日本語ネイティブが書いた文章)を参考にしたほうが、より正確な理解をすることができるからです。

 

まずは「作成」から検索

特許庁データベースで、今回は「請求の範囲=作成」「出願人=島津製作所」と入れて検索をしてみました。企業名は何でも構いませんが、分析機器を作っている島津製作所であれば「作成」という言葉を用いる機会が多いのではないか、と判断しました。

 

これで検索をすると、

このように886件がヒットしました(※範囲を「請求の範囲」に絞ったのは、他の箇所を含めてしまうとより多くの件数がヒットしてしまうので、手間が煩雑になると考えたためです)。

 

表示結果を上から順にいくつか見ていきましょう。

 

①特開2017-085021/発明の名称:レーザ装置/出願人:株式会社島津製作所/発行日:2017年05月18日/出願番号:特願2015-213709/出願日:2015年10月30日

 

【請求項1】
併設された複数の半導体レーザと、
前記複数の半導体レーザを固定するホルダと、
前記複数の半導体レーザを放熱させるためのヒートシンクを備え、
前記ヒートシンクには、前記ホルダに対する前記複数の半導体レーザの凹凸部に嵌合する凸凹部が形成されていることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記ヒートシンクの凸凹部は、前記複数の半導体レーザ及び前記ホルダを読み取ることにより得られる前記複数の半導体レーザの凹凸部に対応する凹凸情報に基づき積層造形して作成されることを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。

(以下略)

 

黄色で反転した箇所に「作成」が使われています。が、ここは内容からすると「作製」のほうが正しいような気がしますが…

 

②特開2017-084631/発明の名称:画像補正装置/出願人:株式会社島津製作所/発行日:2017年05月18日/出願番号:特願2015-212456/出願日:2015年10月29日

(前略)

【請求項3】
前記ドリフト補正部が、前記主画像及び前記参照画像のうちのいずれか一方における位置を表す座標を他方の位置を表す座標に変換するための関数を作成するものであることを特徴とする請求項2に記載の画像補正装置。
【請求項4】
前記記憶部に、前記主画像を取得するための測定において前記所定の物理量と別の種類の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記別の種類の測定値の分布を表す対象画像が保存されており、
前記補正実行部が、前記主画像における補正対象領域及び移動量を用いて前記対象画像を補正する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の画像補正装置。
【請求項5】
a) 試料の測定対象領域を所定の速度で走査しつつ前記測定対象領域内の各測定点における所定の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記物理量の測定値の分布を表す主画像が保存された記憶部と、
b) 前記主画像を平滑化処理することにより参照画像を作成する参照画像作成部と、
c) 前記参照画像と前記主画像の対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める差分算出部と、
d) 前記差分が予め決められた閾値以上である1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域を抽出する補正対象領域抽出部と、
e) 前記主画像の前記補正対象領域を1測定点ずつ面内で移動させ、各移動位置において前記主画像と前記参照画像の各対応測定点の測定値の差分の前記補正対象領域全体としての所定の統計量が最小となる移動量を決定する移動量決定部と、

f) 前記主画像の前記補正対象領域内の各測定点の測定値を前記移動量だけ移動して測定値を置き換える補正実行部と
を備えることを特徴とする画像補正装置。

 

ここでは「関数」や「画像」に対して「作成」が用いられていますね。「書類を作成する」と同じ意味合いで用いられているので、こちらは正しいと考えることができます。

 

③特開2017-072482/発明の名称:散乱補正方法/出願人:株式会社島津製作所/発行日:2017年04月13日/出願番号:特願2015-199515/出願日:2015年10月07日

【請求項1】
測定データにモデル関数を畳み込み積分することによって散乱成分を推定して除去するコンボリューション・サブトラクション法により散乱補正する方法であって、
パラメータを、被検体の大きさに関する関数または被検体の大きさ毎のテーブルとして予め記憶しており、散乱補正時での被検体の大きさおよび前記関数または前記テーブルに基づいて、散乱補正時での被検体の大きさに対応づけられたパラメータを決定するパラメータ決定工程と、
当該決定されたパラメータを用いてコンボリューション・サブトラクション法による散乱補正を行う散乱補正工程と
を備えることを特徴とする散乱補正方法。

【請求項2】
請求項1に記載の散乱補正方法において、
2種類以上のファントムまたは模擬被検体を用いて前記関数または前記テーブルを作成することを特徴とする散乱補正方法。

(中略)

【請求項5】
請求項4に記載の散乱補正方法において、
2種類以上のファントムまたは模擬被検体を用いて前記テーブルを作成することを特徴とする散乱補正方法。

 

ここに出てくる「テーブル」は、リビングにあるものではなくソフト上などで用いられる、触ることのできない概念として用いられているので、「作成」を用いるのが自然ですね。

 

ここではとりあえず、2017年5月28日現在でヒットした上3件を見てみました。定量的なデータを取るには、上から10件、20件程度をざっと読んでみるのもいいかと思います。

 

続いて「作製」を検索

次は、出願人を同じにしたまま、請求の範囲で「作製」を探してみます。出願企業は変更してもいいのですが、分かりやすいように同じ会社にしました。

 

次は、検索をすると結果がわずか80件。

 

同じように一覧表示で、上から3件の明細書(の請求の範囲)だけをここでは確認してみることにします。

 

①特開2016-206083/発明の名称:全有機炭素計/出願人:株式会社島津製作所/発行日:2016年12月08日/出願番号:特願2015-089940/出願日:2015年04月27日

 

【請求項1】
試料水溶液に酸を加えることにより、酸性試料水溶液を作製する酸添加部と、
前記酸性試料水溶液をガス透過性チューブ内に流通させることにより、二酸化炭素除去試料水溶液を作製する無機炭素除去部と、
前記二酸化炭素除去試料水溶液中の有機炭素を二酸化炭素に変換するTC変換部と、
前記二酸化炭素除去試料水溶液中の無機炭素を二酸化炭素に変換するIC変換部と、
二酸化炭素を検出する検出部とを備える全有機炭素計であって、
前記無機炭素除去部は、アルカリ性水溶液が収容された容器を備え、
前記ガス透過性チューブは、前記アルカリ性水溶液中に浸漬されていることを特徴とする全有機炭素計。

(後略)

 

ここでは、水溶液を「作製」する、と用いられています。このように化学実験絡みの内容で、化合物等をあたらしく作る時は「作製」を用います。

 

②特開2016-161757/発明の名称:回折格子製造方法およびそれにより作製されたレプリカ回折格子/出願人:株式会社島津製作所/発行日:2016年09月05日/出願番号:特願2015-040129/出願日:2015年03月02日

【請求項1】
マスター回折格子の格子面上に格子溝形状の離型剤膜を形成する離型剤膜形成工程と、
前記離型剤膜上に格子溝形状の金属膜を形成する金属膜形成工程と、
接着用樹脂層を介して前記金属膜とレプリカ基板とを密着させる密着工程と、
前記レプリカ基板を前記マスター回折格子から取り外すことで、前記レプリカ基板に前記接着用樹脂層および前記金属膜が接着されたレプリカ反射型回折格子を作製する反射型回折格子作製工程とを含む回折格子製造方法であって、
前記レプリカ反射型回折格子の前記金属膜に粘着テープを貼り付けた後、前記粘着テープを前記レプリカ反射型回折格子から取り外すことで、格子面を有する前記接着用樹脂層と前記レプリカ基板とからなるレプリカ透過型回折格子を作製する透過型回折格子作製工程を含むことを特徴とする回折格子製造方法。

(中略)

【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の回折格子製造方法で作製されたものであることを特徴とするレプリカ回折格子。

ここでも、具体的な物品を作る際に「作製」が用いられていますね。

 

なお、この明細書では「製造」という言葉も用いられていますが、製造はどちらかと言えば、機械を用いて大量生産をする意味合いがあり、「作製」はより小さなものを小規模(例えば試験用に1つ)作る際に用いられることが一般的です。

 

③特開2016-095139/発明の名称:試験体プレート作製方法とそれにより作製された試験体プレート及びそれが用いられる含有物質計測装置/出願人:株式会社島津製作所 他 /発行日:2016年05月26日/出願番号:特願2014-229462/出願日:2014年11月12日

【請求項1】
レーザ誘起プラズマ分光分析法に用いられる試験体プレート作製方法であって、
上面に凹部が形成された基板を準備する準備工程と、
前記凹部上にバインダ層を形成する形成工程と、
前記バインダ層上に試料を配置する配置工程とを含むことを特徴とする試験体プレート作製方法。
【請求項2】
前記試料は、液体試料であり、
前記配置工程で、前記バインダ層上に液体試料を滴下して蒸発乾固させることを特徴とする請求項1に記載の試験体プレート作製方法。
【請求項3】
前記基板は、シリコン製基板又は金属製基板であり、
前記バインダ層は、サッカロース層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の試験体プレート作製方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項の作製方法により作製されたものであることを特徴とする試験体プレート。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれか1項の作製方法により作製された試験体プレート表面に、レーザ光を照射して試料含有物質をアブレーションしてプラズマ化するレーザと、
プラズマ化された物質からの発光を波長毎に分解して、発光スペクトルを取得する分光分析装置とを備えることを特徴とする含有物質計測装置。
【請求項6】
前記試験体プレートを作製する際に、前記試料又はバインダを蒸発乾固させるための蒸発乾固機構を備えることを特徴とする請求項5に記載の含有物質計測装置。

 

この明細書でも、物品を小規模で作るようなニュアンスで「作製」という言葉が使われています。

 

まとめ

今回は文字数の都合でそれぞれ3例を出すにとどめましたが、より多くの明細書に目を通すことで使い方の傾向を把握することも可能です。

 

他には、請求の範囲(またはプラス要約)で「作製」と「作成」をand検索して、両方の言葉が用いられている明細書を調べるのも効果的かも知れません。

 

漢字が違う似たような日本語を1つのペア毎に調べていって、理解を深めるのもオススメです。

 

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