2017年の暮れに購入して以来、ほとんど読めていなかった「英語論文の英語用法百科」の第1編、「よく誤用される単語と表現」を、一通り通読しました。
この本の内容については、このブログでも以前に何度か取り上げたことがあります。
などが一例ですね。
この本、Amazonでレビューをしようとしたら、読み始めた頃に既にレビューをしていたようで………。当時の自分は、このようなレビューを残していたようです。
翻訳の仕事での参考のために購入しました。
誤用しがちな単語や熟語の例の網羅量が多すぎて、
全部丹念に読んでいるといくら時間があっても足りません。
仕事でよく出てくる、あるいは論文でよく使う表現だけでも
とりあえず読んで理解しておくのがいいですね。
英文ライティング、日英翻訳にはもちろん
英日翻訳で、原文を書いたネイティブの曖昧さを理解するのにも
活用できる1冊です。
いわば、べた褒めしているわけです。
が、それなりに丹念に読み進めていっての、読了後の感想は、ここに書いたよりも1ランク~2ランク下がったものになりました。
その理由を今回はまとめておきたいと思います。
「英語用法百科」を特許翻訳のために読む場合の注意点
予め断っておくと、今回まとめる内容には、但し書きとして「特許翻訳の実務で用いる場合」という一言が付きます。なので、論文翻訳や、純粋な英語の勉強にこの本を読む場合には、必ずしも参考にならない評価であることをご理解ください。
さて、特許翻訳の実務で参考にする際にこの「用法百科」を読む場合、数多くの章立て(トピックとなる単語・用法)は、大きく3種類に分かれるかと思います。その3つとは、
①特許翻訳でも頻出するトピック(有用)
②特許翻訳でも使うが、用いる際には注意が必要(ある程度有用)
③特許翻訳ではほぼ出てこないトピック(有用でない)
です。
①は、特許明細書(化学系)でも頻出する表現や単語の章です。”according to”, “compared”, “equal”, “except for”などの、日本語明細書を英訳する際に必ずといっていいほど出てくる表現については、章の中身を一通り読んでおいて損はありません。
②は、このブログでも紹介した”based on”と”on the basis of”の使い分け、などの章です。このテーマについては該当する記事も参考にして頂きたいのですが、端的に言うと、特許明細書特有の、請求項における初出と既出の問題なども合わせて考えると、この本で説明されている、厳密な使い分けに従って英文を書くことが必ずしもできない、ということです。
②については、本の内容を読んだ上で、自分なりの結論といいますか、実務でどう対応するか、という指針を持っておく必要があるので、ややレベルが高い内容だと思います。
そして③についてですが、これは章立てというよりも、どちらかと言えば各章で出てくる数多くの例文に関して、あまり役に立たないものがある、ということです。
どういうことかと言うと、例文の中で、純粋な数学系のテーマに関するものが一定の割合で出てくるのですが、そもそも内容が難しすぎる、というよりは、そのトピックがどういう文脈で出てくるかが不明のため(三角関数なのか微分積分なのか対数関数なのか、というおおざっぱな括りも、自分には分かりませんでした)、その分野の論文を読んだ、あるいは書いたことのある人以外には、あまり例文として意味をなさないものが一定数あった、ということです。
この③に該当する章やその中の例文がそこそこあったので(感覚的に言えば3割程度)、この部分はざっと流して、明細書を読む、訳す際によく目にするものだけを通読すれば、読む価値は十二分にある、といえます。
と、ここまでの評価なら、そんなに評価が下方修正されているとは思われないかもしれませんが、もう1つ気になった点がありました。
説明として意味をなさないのではないか?という箇所も一定数存在
この本を一通り読んで全体的に感じたのが、「英語のニュアンスや用法の違いを日本語で説明することの限界」でした。
この本では、あるテーマの単語や用法について、誤用の例文と正しい用法への修正例を併記した上で、その違いを論理的に(?)説明しているのですが、その説明が非常に分かりづらい場合が散見されました。
例えば、英語を勉強するときに出てきた文法用語(従属節、意味上の主語、目的語、補語…)がよく出てくるのですが、あくまで個人的な話なのですが、自分がこういう風に英語を勉強してこなかったので、こういう説明をされても分からないのが普通なのです(英文だけ読んで、なんとなく違和感があったり、明らかに文法的に間違っているのは分かるのですが、それを日本語で説明されると逆に分からない、ということです)。
この、日本語での説明自体がすごく回りくどいというか、受験参考書に出てくるような解説の仕方で、個人的にはこれを読んでも理解できないのが、読み進めて行くうちに評価が下がっていった理由でした(こういう説明のほうが分かりやすい方もおられるとは思います)。
これなら、英英辞典と、英語で書かれた文法書を読む方が、まだ理解できるのではないか…という印象を受けました(その上で、本書で展開されている説明が、著者個人の感覚的な理解と説明に基づいていると思われる箇所もあって、説明の内容に同意(理解)できない部分もありました)。
これが、英語で書かれた解説書の翻訳であればまた違ったのだと思いますが、細かく章立てがされて体系的にまとめられているように見えて、中身の一部はそこまで体系的ではなく、強引にまとめたように見受けられる部分がありました(その説明を理解するための、特定の分野の知識がこちらに欠けていたというのもあるかと思います)。
個人的な感想ですが、やはりこの本を読むには読者のバックグラウンドや、通暁している学術分野の広さと深さに応じて、理解できる度合いが違ってくるのではないかと思いました。
ついでに書いておくと、この本で出てくる用例の大半が、理論数学・理論科学といった、抽象的な話に関係するもので、特許明細書に出てくる、有機化学や無機化学、生物学といった例がほとんど出てこなかったのも、評価が下がった一因のように思います(化学系で関係している話といえば、何かしらの計算に関係する文章のみでした)。
まとめ
読み始めた当初は野放しで褒めていた「英語用法百科」ですが、ある程度丹念に読み進めて行くと、不十分に思える部分もそこそこあり、やや評価を下げる形となってしまいました。
この本のテーマとコンセプトは素晴らしいものですし、説明に割いている分量も壮絶なので(本は700ページを超えます)、ボリュームそのものは圧倒的ですが、中身(用例)が偏りがち、かつ特許翻訳に携わるなかでほぼ触れることがない分野のものになっているので、その点では、特許翻訳者にとっては優しくない本なのかな、という認識に変わりました。
とは言いつつ、日本人が間違えやすい英文法や英文ライティング(熟語や構文)で、特許明細書の英訳でもよく使うものが一通り収められているのも事実なので、手元に置いておいて損はありません。
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