以前から何回かにわけてまとめている、based onとon the basis ofの違いについて、手元にある「外国出願のための英文作成教本」にも、著者である中山裕木子さんの考えが載っていました。今回は、この本の内容を参照して、実務的視点での考えと対応法についてまとめたいと思います。
なお、このブログで以前取り扱った同様のテーマは、以下の記事に書いています。
本書で紹介されている内容
「外国出願~」のp240~242には、例題としてこのbased onとon the basis ofの対比がされています。
以下、少し長いですが引用です。
【例2:日本語「~に基づいて」は対訳based on以外も検討するとよい】
「~に基づく」を訳したbased onについて、MPEPなどの関連記載は特にありません。一方、クレームでbase onを多用すると、意味が広すぎてわかりづらい場合があります。「~に基づく」をいつもbased onと訳すのではなく、別の具体的な表現がないかを考えるようにするとよいでしょう。
また、文法的に厳密に考えると、based onは名詞を修飾するものであり、動詞を修飾するためにはon the basis ofを使用するのが適切、という議論もあります(p.242 実務メモ【based onとon the basis of】参照)。どこまで厳密に文法規則に従い、または慣例的に許容される表現を使うかについても、翻訳スタイルを決めておくとよいでしょう。
この本のこの箇所に、ブログでこれまで散々書いてきた内容に対する見解は短くまとめられていました。
なお、本書でのリライト案としては、
・in accordance withを用いて具体的に記載する
・by using, using, in accordance withなどにより具体的に記載する
の2つが紹介されていますが、詳しくは「外国出願~」を該当箇所(p240~242)を参照してください。
また、本書のコラム(p242)には、文法の違いを区別した上で、慣用的な表現を適宜用いることも(著者個人の見解としては)問題ない、ともまとめられています。以下、こちらも長くなりますが、引用します。
実務メモ
based onとon the basis of
「~に基づいて~する」といった文脈で、どうして修飾して使うbased onは文法的に不適切だという議論を聞くことがあります。厳密には不適切かもしれませんが、本書の著者は、このbased onを許容と考えます。
「~は~に基づいている」を意味するX is based on Y.の場合、based onは動詞baseの過去分詞による受動態表現として、文法的に説明が可能です。一方、「~に基づいて~する」と副詞的に各場合、つまりX does … based on Y.の場合、based onを副詞的に働かせ、動詞doを修飾しています。このbased onは文法的に説明ができない、という理論です。ACSスタイルガイドにも記載があります。
(中略)
この文法事項の結果、based on…ではなく前置詞句であるon the basis of…が文法的に正しい、ということに繋がり、さらにon the basis ofがクレーム初出の場合、先行詞欠落のtheが不適切なのでon a basis ofとしないといけない、などと議論は広がるようです。
このように厳密な文法事項を吟味すること自体は大切ですが、決まりごとを知った上で、どこまで忠実に厳密な文法規則に従い、または慣例的に許容されている表現を使うかについて、翻訳者は考えることも大切です。つまり、「~に基づいて~する」というように動詞を修飾する場合に、文法的に正しいけれど長くなってしまうon the basis ofを使用するか、または短くて便利な表現based onを使うかについて、翻訳スタイルを決めるとよいでしょう。本書の著者は、誤解なく読める場合、短くて便利なbased onを使って動詞を修飾することを許容と考えています。
なお、動詞を修飾する「~に基づいて」を他の語に置き換えて、based onの使用自体を減らすことも可能です。
(※赤字はブログ著者による加筆)
ということで、前提として文法的な厳密性を理解した上で、文脈から判断して誤解の可能性が(少)ないときには、副詞的にbased onを用いることは問題ない、という見解がまとめられています。
私個人がどう考えているか
これまで、このテーマに関連して引用してきた
①可能であればbased on以外の(より意味の繋がりが明確、正確、厳密になる)言葉を用いる
②現実的な仕事の納期の関係で、①の対応に無理がある場合は、次善手としてbased onを用いる
のがいいのではないか(というか、現実的に落ち着くラインではないか)と思います。
私が担当する日英案件はこれまでのところ、化学系がほとんどなので、機械・通信系でよく見られる「XXがYYに達したときに伝達される信号がAに伝わるか、又はBに伝わるかに基づいて、CがDするかどうかを判定する」のような、副詞の役割を担う節が長く、かつこのような表現が1つの請求項に連続して出てくる、ということはないので、上記①の対応でも特に問題はありません。
が、今後通信系の英訳の仕事を対応する際に、全ての仕事で①のアウトプットができるかとなると、断言はできません。
結局、仕事というのは期待値をある程度上回るアウトプットを続けることが求められるので、クライアントの意向も鑑みながら、現実的な解を導き出していく、というのが長期的に見て一番良いのではないか、と思います。
なお、この問題は、似たような表現・用法であるdepending on(の副詞的用法)にも当てはまると思っているのですが、こちらについてはまたの機会にまとめたいと思います(現時点での見解は、この言葉に相当する日本語の「~に応じて」は意味が広すぎるので、この表現が出てくる日本文を英訳する際は、直訳で対応させずに訳せる可能性が高く、そのほうが違和感がないのではないか、と考えています)。
まあ、出願人やその間に入る事務所や会社の意向も踏まえる必要があるのも、また事実ですが…
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