「卵は1つのカゴに盛るな」という言葉もあるように、自分の仕事先や収入源などを1つ(や少数)に限定するのは、それらとの繋がりが切れた時点でほぼ終了になってしまい、推奨されるものではありません。
この話は、この動画でも言われているとおりですね。
この動画で言われている「ポートフォリオ理論」によると、「顧客(取引先)は25分散」ということなのですが、翻訳業(下請けのフリーランス)という視点で見ると、さすがに25分散はすぐにはできない、かと言って1つや2つに絞るのもリスクが高すぎるので、取引先(や、副業で取り組んでいる他の収入源の総数)は、5~10個くらいに分散できるのが、ある程度安定稼働してからの目標になるかと思います。
そして今年、僕は特許翻訳を始めて5年目。
独立そのものはその前からもしていて、確定申告もきちんとしていたのですが、定量的なデータとして見ることができるのが、特許翻訳に移行して会計ソフトfreee(フリー)
結果を先に言っておくと、今年は(粗利自体は数年前より減りましたが)「取引先の分散」という意味では、今までで一番理想的な結果を得ることができました。それと同時に、去年以前のレポートを見ていると取引先が偏り過ぎていてヒヤヒヤ…と思ったのも事実。
ここからは、翻訳者をはじめとする個人事業主・フリーランスの方にも参考になるように、この5年間の結果を示しながら、僕が伝えておきたいことをまとめたいと思います。
freeeで同じようにデータを確認するには
既にfreeeをお持ちの方は、トップページの左上のタブ「レポート」→「損益レポート」の順に絞り込んで、絞り込む月数を「12ヶ月」にして「絞り込み」ボタンを押すことで、最新の情報を、そして「最終年」の数字を変更することで、freeeに残っているデータで前年以前のデータにアクセスすることができます。
※以下のデータでは、取引先のデータは伏せていますが、売上金額はそのまま表示しています。隠すかどうか考えましたが、取引先(や事業)によって毎月売上が立っているわけではない(スポットで仕事を請けることもある)、という情報も含めて確認できるので、よりイメージしやすいデータを示せるかと判断したからです(ただ、写真の数字が小さすぎて分からないかもしれません)。
売上の合計金額についても計算したら分かることになりますが、こんなにも稼いでいるのか、とか、言うほど稼いでないんか、という感想は人それぞれ違うと思うので、そこらへんは心の中で感想を漏らしてもらえればと思います。
①徹底的な取引分散ができた2019年
まず、今年の売上データ(12月18日現在)。
理想的には7社くらいと業務委託契約結んで、3社の仕事で基本キャッシュフロー回って、残りの数社は余力で受ける、気分転換で差し込む、くらいのバランスがいいと思う。今年の自分の割合は、3.2:3.2:1.5:1.5:0.4:0.2、くらいでクライアントワークしてたことになる。
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) December 12, 2019
継続して仕事を頂いたところが2つ、数ヶ月おきではありますがスポットでの仕事を請けたところが3つほどあって、その他こまごました収入を、複数のアフィリエイト(ASP)やアドセンス、Kindleなどから振り込んでもらいました。
自社教材の販売も、決済サービスから銀行口座への振り込みをもってfreeeに登録しているので、売上が立ったタイミングと帳簿に載ったタイミングが違うのですが、額の多寡こそあれど、取引先(事業)の数で言うと16個まで分散できていて、これはもちろん過去最高。
翻訳の仕事を請けるだけであれば取引数や処理数にも限界があるので、ベーシックインカム的に自社事業の種を蒔いて、毎月~数ヶ月に一度でもいいので、副業レベルでの収益確保をまずは目指すのが、いいんじゃないかと思います。
僕は、フリーランスの理想の売上分散は「最大売上が全体の売上の50%を切ること」だと考えていますが(法人経営とは違うので、必ずしも売上を25分散する、1社(事業)あたりの売上が一定の割合を切る、という考え方をそのまま採用するのは注意が必要だと思っています)、今年は意図せず(?)上手い具合に分散ができた年となりました。
なお、この売上をグラフにしたらこんな感じでした。
②「フリーランス」としては理想の分散だったであろう2018年
去年、2018年のレポートはこちら。
翻訳の仕事がほぼ3つの取引先で回っていて、他はアドセンスなど、副業程度の収入が数パーセント未満の割合で差し込まれているポートフォリオとなりました。2018年まで、売上登録の際に取引先のデータを入力していないことがときどきあったので、もしかしたら多少の順位(割合)の変化は実際にはあるのかもしれませんが、恐らく、「普通の」フリーランスとして仕事を請けている方であれば、この2018年のようなポートフォリオ分散になるのが一般的ではないでしょうか。
2018年は、直近4年では一番粗利が減った年ではあるのですが、ポートフォリオだけをみると、フリーランスとしては合格の分散の仕方だったのではないかと思います。
グラフにしたら、こうなりました。
(10月にものすごい額の支出が記録されていますが、これはこの年に試験的に始めた物販での仕入れ額を記録しているからです)
③取引先が偏り過ぎていて、今思うと危険すぎる2015~2017年
特許翻訳に参入したのが2015年なのですが、ここから3年は、びっくりするくらい取引先が偏っています。
2017年
2017年は実は結構ピンチだった年で、セミナーを大々的に開催した年だった一方で、ほぼ取引先が偏ってしまっていて、しかもそこからの仕事が数ヶ月ストップする、というのが夏場に起こったこともあって、取引先を分散する必要があることを一番身にしみた一年でした(ちなみに、「翻訳ツール大全集」のリリースをしたのもこの年です)。
グラフだとこう。
この頃は、まだセミナー代金の銀行振り込みや、自社商品の売上げの取引先データを「未登録」で処理していたので、翻訳の仕事以外の売上分散の比率がいまいち分からない時期でもあります…。ただ、恐ろしいくらい偏っているのは、このグラフを見ても分かりますね。こういう状態は、いくら同じ取引先から仕事がドンドン振られていても、止まってしまうと一気に詰むので、できるだけ取引先を増やす、たまにしか依頼が来ないところの仕事も積極的に請ける、といった工夫が必要です(僕も、2年前の自分に何度も言い聞かせたいです)。
2年くらい前、取引先4社くらい抱えていたときに次から次へと同じ所から仕事振られ、それだけ対応していてほぼ1社固定になり、そこから数ヶ月仕事途切れた時があって、いきなりキャッシュフロー詰みそうになった時があるので。同じ所で仕事が集中したら、無理してでも一度止めて、新規開拓とかすべき。
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) December 12, 2019
2016年
こんな感じでした。この時も、一番売上の多い取引先との仕事に比重が偏り過ぎ。ちなみに、翻訳業だけでの稼ぎが一番高かったのはこの2016年なんですが(当時26歳で850万円くらい稼ぎました)、これでも今見てみると、ポートフォリオ分散と言う意味ではほぼ赤に近い黄信号ですね。
グラフだとこう。
まだ、複数の取引先に分散されていて、2017年と比べると遙かにましですが…。
この頃は自社事業も全く取り組んでおらず、翻訳で95%以上、残り5%未満を、この年から取り組み始めたトレンドアフィリエイトでの広告収入、という比率での売上だったと思います。
まあ、今振り返ってみれば怖いとしか言いようがないのですが、恐れを知らずに突っ走ることができるのも若さの強み、だということでしょう。今同じようなポートフォリオで仕事ができるか、と言えば、たとえ今より粗利が増えたとしてもできないですね。実際、2016~2017年はほぼ部屋に籠もりっきりで、旅行とかに全然行けていませんでしたから(むりやり時間を作るんですが、そうすると物理的に休めない、というジレンマがありました)。
2015年
特許翻訳に参入した黎明期のデータはこちら。
この時期は、まだ複数の取引先を確保している最中で、運良く1社から継続して仕事は頂けていましたが、まだまだ荒削りの時期。この頃は、特許翻訳に移行する前にやっていた翻訳の仕事からの移行もしていた時期なので、今年(2019年)に次ぐ、分散ができていた年ではありました。
グラフにするとこちら。
と、ここまで振り返りもかねてまとめましたが、ソースとなるデータの画質があまり良くないですね(笑)。まあ、だいたいこんな感じ、という雰囲気を掴んで頂ければ大丈夫じゃないかと思います。
休眠していた取引先との取引が急に復活することもある
そうそう、これも大事な話なのと、気になる方もおられると思うので合わせて書いておきますが、僕の場合、トライアルに合格して契約も交わしたけれど全然仕事が来ない、1回だけ仕事を請けたけどその後なしのつぶて、という取引先からも、突然仕事が振られることはここ2年ほどで何度か経験しています。それに伴い、メインの取引先が数年単位で変わっているのも事実(たぶん、それくらいのほうが健全なんだと思います)。
逆に、今までお世話になっていたけれどなんとなく疎遠になってしまって………というところもありますが、それも仕方ないかなと思っています。またどこかで取引が復活することはあるでしょうし、その時のために自分のレベルを一回り、二回り上げていけばいいことなので。
取引が途絶える、全く取引がなかったのに何かの拍子に定期的に仕事を頂ける、というのは、恐らく先方の都合によるものが大きいのだと思いますが、自分の力だけではどうしようもすることができませんし、極論するとフリーランス翻訳なんて下請けでしかないので、小さくてもいいので自社事業を作っていく、それが難しければまずは売上の徹底分散に努める、というのが、正しい努力なんじゃないかと思います。
(ついでに補足しておくと、上で表したグラフデータの色ですが、毎年同じ色=同じ取引先、ということではないようです。どういう基準でfreeeがこういう設定をしているのか、僕にも分かりません)
売上分散と自社事業の種まき、が長期的に見て取り組むべきこと
上にも書きましたが、フリーランスとしてまず目指すべきは「徹底的な売上分散」で、翻訳であれば取引先7社前後で、3社ほどで仕事が安定的に回る、という状態を作るのが最初の到達地点です。
理想で言うと、毎月小さくてもいいので仕事を続けて頂けるところが2つくらいあって、他に2つほど、数ヶ月に一度のペースで仕事を請ける、という取引先があること。たまにしか仕事の依頼が来ないところでも、余裕があれば既存の取引先との仕事を優先してでも取り組んだほうがいいですし、目先のキャッシュを確保することが一段落したら、ずっと請けている取引先の仕事を何度かパスしてでも、別の取引先との仕事に取り組んだほうがいいとも思います(数年前の僕は、これができませんでしたが)。
その上で、下請けの仕事だとずっと売上が立つ見込みもないですし、自らアクションを起こせることも多くはないため、自分が元請けとなる小さな事業をコツコツと作っていく、というのが2番目に取り組むべきことですね。
僕の場合、元請け事業は自社商品の販売に加えて電子書籍やアフィリエイト、アドセンスなどあるのですが、これらのうち、自社商品以外はプラットフォームやシステム、サービスが外部プロバイダー依存なので、完全に安心できるとも言いきれません(Googleのアップデートでサイトが飛ぶ、など)。
自分の場合、既にいくつか自社コンテンツがあるので、それを増やしていく、より多くの人に届ける、ということが次の数年での目標になっているのですが、こちらに集中しすぎても翻訳が疎かになるので、兼ね合いはこれからも探り探りで取り組んでいく、ということになりそうです。
数年前の自分もそうでしたが、たとえ翻訳で数百万の稼ぎを得られていたとしても、その仕事がほぼ1社固定になっているのはむしろただのリスクでしかなくて、土台が潰れるのは時間の問題だと思うので、売上(粗利)を少し減らしてでも新規開拓や売上の分散を優先されることをオススメします。
教訓としては
①小さくてもいいから元請け業を
②売上は分散を
③身の丈にあった規模で
④逃げないほうがいいもちろん調達して勝負かけるスタートアップとかはこの限りではありませんが。
— 新谷学 アスパラ社長 (@ShintaniManabu) March 22, 2019
最後に、この記事で紹介したクラウド会計ソフトのfreeeだと、ここで紹介したような売上分散のデータも確認できるので、まだ利用していない方は是非利用してみましょう。
2020年の5月に値上げが予定されていますが、それまでに申し込めば旧料金で1年間は利用できます。
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