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特許翻訳に学術論文を活用する

特許翻訳をしていると、ネット上の様々なソースを活用して技術背景、原理や表現、単語等を調査するのだが、そのソースの中には学術論文もある。今回は学術論文をどのように特許翻訳で活用するかを、自分の経験を踏まえてまとめてみたい。

①論文検索は脇役的かつ偶有的な作業

まず、学術論文の内容が特許翻訳にそのまま活用できるわけではない。というのも、学術論文では(言い方は悪いかも知れないが)重箱の隅をつつくような「個別具体的すぎる」内容について詳細に書かれており、特許明細書ではそこまで特定の内容について深掘りはされていないからだ。

 

そして、論文を探すというのは、あくまでも結果的な話であって、最初から「論文を調べよう」というスタンスで臨むことは、殆どない。というのも、論文に行き当たるのは、仕事や勉強の際によく分からない英単語や、聞き慣れない表現が出てきた場合に、キーワード検索を行うことで「たまたま」結果に表示されることがある、というのに過ぎないからだ。あくまで「アクセスしたい情報の一つに、論文という形態がある」くらいの考えを持っていれば、とりあえずは大丈夫である。

 

②論文は隅々まで読まない

調査の際に論文がヒットするのは、明細書で使われている英語と同じ表現が使われている場合や、そこから自分でアタリを付けた日本語が使われている場合である。

 

なので、仕事の際にはその箇所周辺(多くて1テーマ)をざっと読んで、それでも分からなければ更にキーワードを抽出して、他の組み合わせを考えて別の検索をしていく、という作業を繰り返すことになる。つまり、自分が欲している情報に近いものが載っているであろう箇所の周辺を熟読することが、特に仕事では大事になってくる。

 

③論文の一番の効用

上で、「論文は個別具体的すぎる話が書かれてあるが、明細書ではそうではない」と書いた。これは、どちらかと言えば「論文は無意味」というようなニュアンスになってしまったと思っているが、実はそうでもない。

 

というのも、個別具体的な話だからこそ、どのようなことを言わんとしているのかをこちらもより具体的にイメージ・理解できるから。というのも、明細書では常識とも言える技術内容については改めて説明しない場合も多く、自分が馴染みのない分野の案件を新しく対応する場合は、特にイメージが掴みづらく、仕事の進みがゆっくりとなってしまうことになる。

 

そういう時に、検索結果の論文の内容を手がかりに、自分なりに明細書の抽象的な内容と、論文の具体的な内容を咀嚼してつなぎ合わせる作業が重要になってくる。

 

事実、私は特許翻訳に参入する際に、ヒットした論文に大方目を通していた。参入時は燃料電池分野をメインにしていたのだが、もともと持っている知識が中学校の理科で習った内容しかなかった。そのため、明細書を読んでいて分からない単語や表現をある程度理解するためには、やや詳しすぎる程に書かれた論文を丹念に読み解くことが必要だったからだ。

(そういう意味では企業のHPも参考になる。個人がまとめたページは、一通りの理論を押さえるには良いのだが、課題解決と研究のせめぎ合いが起こっている現場に関係する内容は、論文を使うのが一番良いと思っている)

 

この時の取り組みが自分には利いていて、今でも生化学系案件(特に遺伝子組み換えや抗体、細菌関係)の仕事の際には、仕事の途中でこまめに検索をして、論文に目を通してある程度の理解をするようにしている(もともと、これら分野は既視感がなく、苦手意識もあったため)

 

④論文の活用方法(応用編)

生化学系案件を担当していて気づくのは、実は明細書内にひっきりなしに論文の引用が出てくることである。特許明細書の多くは、先行の開示内容をたたき台にしているわけで、特許の引用はどこでも行われているのだが、生化学系の案件では、従来の分析方法や遺伝子組み換えDNAの説明に、論文での記載の旨を一言添えている場合が多い。

 

論文活用法の応用として、これらの論文を読み込んで、その明細書に出てくる従来技術も幅広く押さえておくことは挙げられるだろう。実際にはそんなことをしている時間的余裕がないのが辛いのだが、特許翻訳者の理想は、先日の「学会誌の活用」でも書いたように、仕事とは直接関係のないところでたっぷりと時間を使い、勉強ができることではないか、と思う。

 

まとめ:積極的に論文には目を通すべし

学術論文の一番の良さは、個別具体的なケースを詳しいところまで知ることができる点にあると考えている。特許翻訳をする上で、細かすぎる内容を不必要なまでに理解することは無駄であるが、ある程度含みがあり、抽象的な内容の明細書を理解するには、論文を辿って個別具体的なケースから理解を深めていくことが必須ではないかと考えている。

そして、仕事の空きの際に、分からないところまで目を一通り通せば◎だ。

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