翻訳をフリーランスでする、というと(翻訳業に限ったことではないかもしれませんが)昔は会社勤めをしてから独立、という流れを辿るのが一般的でした。ただ、最近は学生のうちからフリーランスとして仕事をしてそのまま独立、というようなキャリアパスを歩む人も多くなってきたような印象を受けます。
そこで今回はずばり、翻訳業において「フリーランスとして独立する前に会社勤めは必要かどうか」というテーマについて取り扱いました。
僕は会社員を少し経験した
このブログのサブタイトルにも書いていますが、僕は大学卒業後、半年ほど小さな会社で仕事をしていました。とは言っても翻訳とは一切関係なく、リク○ートの代理店で、毎週月曜に発酵するタウン○ークなどの求人雑誌を作る営業(兼雑用)の仕事でした。
じつはもともと、僕は就職をしようかどうかを学生中にずっと悩んで、結局就職をすることにしたのですが、学生のうちから「将来的に独立したいな(というか、しないといけないな)」と考えていました(これは、学生の時にリーマンショックを経験したからなのですが、これについては改めてまとめます)。
当時から、ブラック企業の話は色々と出回っていましたし、就職活動をしていても説明会にいる会社員の方の姿が全く輝いていなくて、「ああ、会社に入るとあんな風になるのか…」なんて、あの頃は悪い面しか伝わってきませんでした。
さて、ではなぜ僕が営業の仕事に就いたのかというと、「将来的に独立するのであれば、営業能力は必要だよな」という、なんとも単純なものでした。思えば、「モノを持っていても得る能力がなければ意味がない」と考えたのは、我ながら良かったとは思いますが、それでも広告代理店を選んだのは、あまり正しい選択ではなかったように今は思います。
その後、僕は仕事を半年ほどで辞めてしまうのですが(労働条件も過酷でしたが、上司からパワハラを受けたことが大きかったです)、今振り返ってみると、「会社がどんな仕組みで動いているのか」ということを実際に社内から見ることができたのは大きな財産だった、と言えます。
フリーランスが仕事をする相手は会社員が普通
独立してから感じたことは、翻訳業のようなクライアントワーク(取引先と契約をして仕事を受ける)をフリーランスとしてする場合、メールのやりとりをしたり、成果物を納品する相手は会社員であり、会社の内部事情を少しでも知っていたことで、僕は仕事に役立ったことが大いにありました。
例えば、フリーランスと言うとなんだか自由で優雅な響きがありますが、仕事を振って頂くのは取引先の会社員(普通はコーディネーター)なわけで、翻訳会社というと小規模なものが多く、数人のコーディネーターが、場合によっては十倍以上の翻訳者に仕事を割り振って、納期や進捗管理をして、チェッカーからの品質管理もして…と、恐らく相当大変な仕事をされていると思います(僕は翻訳コーディネーターの仕事をしたことはないので、あくまで想像です)。
その時に、コーディネーターさんは一度に何人、あるいは何十人の人とメールのやりとりをしないといけないことは想像に難くありません。もし、新しい案件が5件入ったとしたら、対応できる登録翻訳者5人に打診をして(分量が少なければ、あるいは類似案件であれば2人に割り振るとかもできると思いますが)、無理な人がいれば更にもう2人をピックアップして相談をして…ということを、毎日とは言いませんが多くの日にされているのは恐らく間違いないでしょう。
また、新しい仕事の相談を翻訳者にしながら、納期が迫っている仕事の進捗を確認しながら、レビューに回した仕事についても把握して…ということを(恐らくは)されていると思うんですが、そうなると、登録翻訳者の返信が少しでも遅れたり、あるいは喫緊でない質問や、自分で調べれば解決可能な内容をコーディネーターにわざわざ問い合わせてしまうと、それに時間を取られてしまい、他の仕事が後ろに流れ込んでしまう…なんてことが起こってしまうのも、いい歳をした方であれば容易に想像ができる筈です。
もちろん、これは翻訳会社のコーディネーターという仕事特有のものなのかもしれませんし、他の会社、特にスタッフも多くサポートや研修体制がしっかりしている大企業、大手企業であれば、ここまでバタバタすることは少ないのかも知れません。
しかし、少なくともフリーランスとして翻訳業をする場合、普通は翻訳会社と登録スタッフとしてビジネスをするわけですから、相手がどれくらい忙しいのか、相手の時間をどうすればできるだけ奪わずに済むのか、ということを、フリーランス翻訳者は少しでもイメージできたほうが、仕事はスムーズにできるのは間違いありません。
会社の中を見たから想像力が養われた
僕が勤めていた会社は、それこそ社員が全員で10人にも満たず、その人数で営業も広告製作も庶務も、何から何まで回していました(回っていませんでしたけど)。そして、当時はてんやわんやな仕事量でしたが、取引先から電話がかかってきて対応することで他の仕事が回らない、他の社員宛にかかってきた電話の取り次ぎをしなければならず、自分の仕事に取り組めない、なんてことばかり続いていました(今振り返ってみると、よくあの環境で仕事ができていたなと思います)。
あの時、あれだけ過酷な環境で仕事をしていたことで、フリーランスとして独立したときに「相手に時間を取らせないようにしよう」「急ぎじゃない内容なので、返信は週明けでもいいことを伝えておこう」「これは本当に今相手に聞くべきこと?自分でもう少し調べられないだろうか」ということを想像して、自分なりにメールの文面を練って、できるだけ詳しく内容を伝えて、相手にして欲しいことをはっきりと伝えることを意識してきました。
今でも時々、自分が会社員を経験せずに独立していたらどうなっていたのかな、と思うことがあるのですが、あれだけ過酷な現場をリアルで見ることがなかったら、独立をしても相手(翻訳会社のコーディネーター)に迷惑ばかりをかけて、今では仕事が続いていなかったかもしれない、と思うこともあります(人生にたらればはないので、実際はどうか分かりませんが)。
そういう意味では、「会社の中はどんな風に動いているのか」ということを実際に皮膚感覚で把握しておくのは、フリーランスとして仕事をする前に会社勤めをしておく1つの利点だと言えるのではないでしょうか。
独立後に役立たない無意味なことには注意!
ただし、僕は会社員時代に、フリーランスとして仕事をする時に役立つ内容を学ぶことができましたが、場合によっては、会社員時代にはフリーランスとしては全く役に立たない内容を教えられてしまうことにもなりかねません。
例えば、飲み会で上司の機嫌を取ったり周りを見渡して行動する、というのは、少なくとも翻訳者として黙々と仕事をするときには必要ありませんし、会社の中でスキルを培う、というのも、独立後に役立たないことが多いです(会社員のトップレベルは、フリーランスの最底辺レベルと言われることもあります)。
結局、大切なのは本人の意思と主体性
そういう意味では、フリーランスの前に会社員を経験することの是非は、あくまで本人が「会社でこういうことを学ぼう」と主体的に意思を持った上で、日頃の仕事をこなしながら更に別のことも学んでいく、という、非常に積極的な考え方を持っておかないといけないことになります。
会社にいれば研修を受けられて、翻訳方法についても学べて…というような「他人に施してもらう」という考え方を一抹でも持っている時点で、独立前に会社で仕事の経験をすることの価値は大きく減ってしまうでしょう(そのような姿勢で会社勤めをするのであれば、フリーランス翻訳者として必要なスキルを必要な水準で自ら獲得して、開拓を進めることが一番の近道です)。
ただ、僕の経験から言えることがあるとすれば、いきなり独立をした人の多くは「会社がどんな原理で動いて、中がどんな風になっているのか」を知りません。これは、少なくともクライアントワークをする場合には大きなディスアドバンテージとなってしまいます。そういう意味では、会社員として仕事をする中で、会社の中がどれくらい忙しいのか、実際に外注に仕事を振るのであれば、どんなトラブルやリスクを会社は抱えているのか、ということを自分の目で見て、自分が反対の立場だったらどうするか、ということを真剣に考えることが、目には見えませんが大きな強みとなると言えるでしょう。
今回は、あまり一般的に語られない切り口から「フリーランス前に会社勤めをすべきかどうか」ということについてまとめました。是非参考にして下さい。
なお、ごく稀に、非常に優秀な方で、想像力が異常に発達していていきなりフリーランスとして人一倍の結果を出す人がいますが、そういう方はそもそも、「新卒でフリーランス」なんて見せ方で自分をブランディングしていません。そうする必要がないくらいに圧倒的に実力があり、結果を出しているからですね。
なお、このテーマについては動画も公開しているので、合わせて勉強して頂ければと。
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