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特許翻訳者に必要な資質とは?

Moraine Lake in Banff National Park - Canada

今回は、今さらですが、特許翻訳者の資質について自分なりの考えを3つまとめてみることにしました。

 

なお、あくまで雑駁な所感であることを予めお断りしておきます。

 

①兎にも角にも言葉が好き!(←コレが一番大事)

特許(に限らないと思いますが)翻訳者に一番必要とされる資質は、なんと言っても「言葉が好き」ということでしょう。これを、特許翻訳に限定して別の言葉で言い換えると「言葉に対する感度が高い」ということになるかと思います。

 

英文和訳でも和文英訳でも、原文で書かれていることをできるだけ同じ意味で、分かりやすく表現するにはどうしたらいいか?ということを常に考えるのが、翻訳者の性(さが)ではないでしょうか。和訳の場合、てにをはの順序とか使い方(これらの助詞は多義的なので、より厳密な表現を使えないか、を考えること)、明細書に出てくる言葉が揺らいでいないか(これは英訳にも言えることですが)、といったことを考え、英訳の場合は、どのように原文を表現すれば明確、簡潔、そして正確(3C)になるのか、ということを常に考えるのが、翻訳者に一番必要な資質と言えると思います。

 

ちなみに私は、日常でもこの職業病がよく出てしまうようで、常に曖昧な表現になっていないか、ということを突っつき回して考えてしまっています。これは良くない。

②理系分野に抵抗がない

翻訳の仕事、というと、どうしても、①で書いたような「言葉」へのフォーカスが当てられてしまいがち(翻訳関係の書籍や雑誌でも、基本的にそういうことばかり書かれているように思います)ですが、それと同じくらい必要な資質に、「理系アレルギーがない」ということが挙げられます。

 

これは別に、最先端の技術の多くに通暁している必要がある、とか、そういうことではありません。どちらかと言うと、特許明細書に出てくる、大学の学部レベル(?)の基礎的な物理、化学、生物学の道理を理解できる、ということを指しています。

 

特許翻訳(や、産業翻訳)に携わる方の大部分は、文系出身の方だと思います(多分ですが、理系出身だと、翻訳ではなくて弁理士だったり企業内の開発など、別の専門スキルを身につけて仕事をするのが普通だと思っているため)。

 

こういう場合において、私もそうでしたが「英語や言語学が好き/得意だから翻訳をする」という動機づけそのものを否定するわけではないのですが、それ「だけ」をとっかかりにしようとすると、技術分野の言葉や物事の道理を理解するのに想像以上の苦労があって、結局この分野でスキルを磨いていくのは難しいのではないか、と思うのが正直なところです。

 

一口に「文系」と言っても、理科数学に苦手意識があって文系に「逃げた」のか、これらに抵抗はないけれど翻訳や言語学、文学を学びたかった、と思って文系を「攻めた」のか、のように、大きく分けて2種類の人間がいると思っていますが、翻訳で身を立てている人は例外なく後者の人間です(あくまで、私の周りを見て、の話ですが)。

 

※別に、私立文系に「逃げた」人を否定するつもりはないですし、そのような方でも特許翻訳者になることはできなくはない、と思っていますが、理科数学に対して持っているアレルギーを払拭するには相当の努力が必要なので、人一倍の覚悟が必要ではないかと思っています。

 

③新しいコトを学ぶのに抵抗がない

最初に「兎にも角にも~」なんて言いましたが、この資質も同じくらい重要です(要は、ここで挙げているこれら3つの資質は三つ巴)。

 

例えば、日本の特許法(外内翻訳)や、米国特許法(内外翻訳)。あるいは、自分の専門分野の新しい技術(仕事とは関係ないかもしれないですが、毎年、ノーベル賞の内容を追ってみる、とかも当てはまると思います)。あとは、翻訳ソフトや機械翻訳・AI翻訳。

 

私は、機械翻訳やAI翻訳を必ずしも良いものと思っているわけではないのですが、将棋のプロもAIを勉強に上手く取り入れていますし、自分の仕事にプラスになる方法を模索しながらこれらのツールを使ってみる、というのは、翻訳の仕事をしている人にも案外必要な資質ではないか、と思っています(最近は特に、何でもかんでもAI翻訳を否定する同業者も散見されるので)。

 

言葉を変えると「好奇心が人一倍旺盛」ということになるかと思います。

 

私のように、自営業で一人で仕事を続けている身からすると、社内・所内で蓄積されるノウハウもなく、それらが共有されるわけでもないので、何か新しい知見を得るために、弁理士さんが主催されているオンライン勉強会に顔を出してみるとか、Faberなどの洋書を原文で読み進めてみるとか、あるいは化学バイオ系の実験セミナー(細胞培養セミナーなど)に、身銭を切って参加してみる、というのも大いにアリではないか、と思っています。

 

※Faberなどの洋書も、本当は弁理士さんを交えて輪読して議論する、というのが効果が高いのではないか、と思っています。

 

 

まとめ

今回は、「特許翻訳者に必要な資質とは」という題目で、私の独断と偏見で好き勝手に書きました。

 

個人的には、翻訳=「言葉」を扱う仕事、と大多数の方が思っている(これは別に間違ったことではなく、正しい認識だと思います)中で、言葉以外の部分、例えば新しい物事、知らない世界を知ることに抵抗がない(=知的好奇心が旺盛)、といった内容に言及されている方が非常に少ないと思ったので、こういう考えがもっと多くの方に広まれば嬉しいです。

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