英文明細書を日本語明細書に訳す際に、明細書によっては”A XXX according to one or more Claims 1 to 10″のような、直訳すると「請求項1~10の一項以上に記載のXXX」という記載になってしまうものがたまにあります。
で、結論を先に言うと、これをこのまま訳すのは、日本での出願を考えると良くない、というものですね。
というのも、日本の特許法と、PCT(特許協力条約)に基づく国際出願に関する法律、の2つの法律、及びそれに付随する施行規則には、「出願では、従属請求項において2つ以上の請求項を引用するような記載はしてはならない」という風なことが書かれているからです。
まず、特許法ではどのように書かれているかというと、36条に以下のような記載があります。
第三十六条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所二 発明者の氏名及び住所又は居所2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。一 発明の名称二 図面の簡単な説明三 発明の詳細な説明4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。二 特許を受けようとする発明が明確であること。三 請求項ごとの記載が簡潔であること。四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。7 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。
このうち、赤字で表記した箇所(36条4項1号、及び36条6項)は、拒絶理由(49条4号)となっているので、これらの規定に則っていないと、せっかく特許出願をしても拒絶査定が出されてしまって、補正をする必要が出てしまいます。
そして、36条6項4号の「その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。」の中に従属請求項で引用する請求項の記載についての規定があります。
それが、特許法施行規則・様式29の2でして、この中に以下のような記載があります。
14 「特許請求の範囲」は、第24条の3並びに特許法第36条第5項及び第6項に規定するところに従い、次の要領で記載する。
イ 「特許請求の範囲」の記載と「明細書」の記載とは矛盾してはならず、字句は統一して使用しなければならない。
ロ 請求項の記載の内容を理解するため必要があるときは、当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる。
ハ 他の請求項を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、原則として引用する請求項に続けて記載する。
ニ 他の2以上の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、原則としてこれらを択一的に引用し、かつ、これらに同一の技術的限定を付して記載する。
ホ 請求項に付す番号は、「【請求項1】」、「【請求項2】」のように記載する。ただし、他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、引用される請求項に付した番号を「請求項1」、「請求項2」のように記載する。
これですね。
つまり、たとえ原文で「1項以上に記載の」という表記がされていても、日本での出願では「いずれか一項に記載の」という表現にしたほうがよい(しなければならない?)、ということになります。
ちなみに、厳密に言うと、特許法は内内出願(日本国内で、日本特許庁に出願する)、及びパリルート出願についての規定をしているだけで、外内翻訳で(個人的には請けることが多い)PCTルート(特許協力条約に基づく国際出願)での翻訳の場合は、上記特許法とは別の法律の条文を参照する必要があります。
それが、特許法とは別に規定されている国際出願法(=特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律)で、この18条に
第十八条 請求の範囲には、保護が求められている事項を発明の技術的特徴により明確かつ簡潔に記載しなければならない。この場合において、請求の範囲は、明細書により十分に裏付けされていなければならない。
2 請求の範囲は、様式第九又は様式第九の二により作成しなければならない。
という記載があります。ここで、様式第9、第9の2を参照すると、9-5に
2以上の他の請求の範囲を引用する従属請求の範囲(以下「多数従属請求の範囲」という。)は、原則として引用しようとする請求の範囲を択一的に引用して記載する。
と、特許法に則った規定がされています。
つまり、PCTルートでの出願の際にも、原文の特許請求の範囲において、従属請求項で複数の請求項を引用するような記載があったときには、翻訳文作成時に、きちんと「択一の記載にして」表記する必要がある、ということですね。
なお、この規定は、厳密には一特許翻訳者がどうこう言うものではない可能性があるので、これらの条文、規則、様式を踏まえた上で、間に入っている翻訳会社や特許事務所に確認をして、適切な指示を仰ぐのがいいでしょう。
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