翻訳業に向いてる人って、どんな人なのでしょうか。
よく、業界向けの雑誌やその手のお偉い方々がまことしやかに、紙媒体やネットメディアで話をしていますが、この記事では、僕の実体験、そしてこれまでメルマガやコンサルを通して多くの人を見てきた結果として、自分の考えをまとめていきたいと思います。
なお、ここで取り扱う「翻訳」とは、いわゆる産業翻訳のことで、ハリポタシリーズなどの文芸翻訳(出版翻訳)、あるいは字幕翻訳などは含まれていません。そこは勘違いされないように十分注意して下さい。
(産業)翻訳者に求められる役割とは
あまり、「翻訳者の役割」って専門雑誌などで強調されていないと思います(どちらかと言えば、「言葉と向き合う」といった、職人的な話がピックアップされがちではないでしょうか)。
ただ、当然ながら他の仕事と同じで、翻訳(産業翻訳)の仕事は「それ自体で完結する」というものではありません。
例えば、英語のマニュアルを日本語に翻訳したい、というクライアントがおられて、普通は翻訳会社がその仕事丸々を請けて、その仕事のプロセスの1つに「翻訳」という仕事が存在するわけです。これは知財系の特許翻訳も同じで、一般的には「特許出願」という業務フローの中に、「必要書類(明細書など)を翻訳する」という1つのワークフローが存在する、ということになります。
つまり、乱暴にまとめて一言で表現することが許されるとすれば、産業翻訳者というのは、「大きな仕事の中の翻訳プロセスを担う専門家」と表現できるかと思います。
翻訳業に向いている人はどんな人?
僕が思う、「翻訳業に向いている人」の特徴を以下に挙げていきます。
①何はともあれ、「言葉と向き合うのが好き!」
産業翻訳者に必要な素質やスキルにはいくつかあって、当然ながらパートナー(登録して仕事をさせてもらっている翻訳会社など)とのビジネス上のやりとりをスムーズに行える、といった「ビジネススキル」もそれには含まれます。
でも、一番大切なスキル(というか素質)は、「言葉が好き」ということです。
ここで言う「言葉が好き」というのは2つの意味があって、1つは「翻訳的」な意味で、つまり「Aという言葉(フレーズ、文章)は、日本語ではこういう意味だけれど、英語だとどういう風に表現するんだろう」ということに興味があって、それを調べることが苦ではない、ということです。これを、ここでは「言語間興味」と言うことにしましょう。
そして2つ目は、1つの言語内での「表現の違い」に対して敏感である、ということです。これは便宜的に「言語内興味」と言うことにしましょう。
言語間興味というのは、例えば「光陰矢の如し」という諺を英語では何というのか?ということに興味を持って、調べることができる、ということです。より産業翻訳的な視点から言うと、何かのマニュアルや、複雑な機械の構造を説明した文章を別の言語に訳すときに「この表現は日本語(英語)ではこうで合っているのかな」とか、そういうことに引っかかりを覚えたり、純粋に興味があって調べられる、という状態です。
これに対して、言語内興味というのは、「東京に行く」と「東京へ行く」の違いって何なんだろう?ということが何かの拍子に気になって、その違いを自分なりに考えた上で調べてみる、ということができる、ということです。
この、言語間興味と言語内興味を持ち合わせた上で、実際に翻訳の仕事をしているときには高速で、微妙なニュアンスの違いを、語感と照らしあわせたりネットで調べてみたり、自分が持っている感覚的な違和感と比較してみたり、ということをしながら、翻訳の仕事は進めていくものだと思っています(少なくとも僕は、そういう風に取り組んでいます)。
もちろん、仕事という制約上、永遠に調べ物に時間を割くことはできませんが、翻訳する原文を読みながら、あるいは訳文を打ち込みながら、細かい違和感を大切にしたり、「どう表現したら誤解がないように伝わるだろう」と、細かい語順を気にしたりして仕事を進めていく、というのが、本来の翻訳者たる姿ではないかな、と思います。
「好きなことを仕事をする」とは少し違いますが、そもそも「言葉」というものに興味がないのに、「翻訳で在宅で人並み以上に稼ぐ」なんて上っ面な考えを持っても、大した仕事はできないと思います。
やっぱり、原点というか、「言葉が好きなんだ」という感覚や想いがないと、翻訳者として仕事をしていくのは大変です。何を当たり前のこと言っているんだ、と言われそうですが、でも実際、この部分を無視してこの仕事に携わっている人も多いんじゃないかと想います。
②長時間部屋に籠もって仕事をしても苦にならない
これも素質の問題ですね。翻訳の仕事はどうしても「自宅(自室)に籠もって淡々と仕事を進める」というものなので、部屋に籠もってじっとすることができない、とか、人と関わるのが好き、という方には、向いていないと思います(人と関わるのが好きな方は、「翻訳」よりも「通訳」に適性があると思います)。
僕の場合、この素質はとても当てはまっていて、オフィスで人とコミュニケーションを取りながら一緒に何かをする、ということが絶望的に向いていないので(実際に半年ほど会社勤めをして、それが分かりました)、納期が決まっていて、それに合わせて自分でスケジューリングをしてひたすら部屋に籠もって仕事をする、というこの仕事のほうがしやすいんですね。
ちなみに、この「部屋に長く籠もる」と「集中力が長く続く」というのは、似ていますが全く違うものです。
意外に思われるかもしれませんが、僕はそこまで集中力が長く続かない人間です。ですから、部屋で仕事をしながら、集中力が切れたときには体を動かしたり、YouTubeを見たりして積極的に気分転換をするようにしています。
ただ、間違いなく言えるのは「部屋でひたすら作業をしているのはつまらない、耐えられない」という方には、翻訳の仕事は絶対に向いていない、ということです。
③気になったことをネットで調べることが苦にならない
翻訳の仕事をしていると、どうしても訳が分からない言葉や、自分の語感と照らしあわせると落ち着かない言葉遣いに何度も出くわします。そういうときに、ある程度時間を割いて丹念に調査をできる、というのも、この仕事をする上で必要なスキルです。
もちろん、いくら調べても分からないことだってあるのですが、そこにたどり着くまで、自分が持っている引き出しを増やして何度も掘り返していったり、時間をおいて調べてみようとしたり、それでも分からなければ、そのことをコメントに残すようにしたりするなど、何らかの形で「自分が気になることを裏取りする、調べる」ということができることが、非常に重要な素質かと思います。
④テキストコミュニケーションを問題なく取れる
一般にはあまり重要視されないかもしれませんが、メールライティングも翻訳業で必須のスキルです。
オフィスで働いていれば、直接面と向かって確認することも多いですが、在宅で仕事をするのであれば、仕事のやりとりなどは基本的に全て、メールのやりとりになります。
そのときに、失礼な言葉使いになっていないか、相手が伝えていることを正確に理解できているか、手元にファイルは全て揃っているか、指示内容に分からない・分かりづらい点はないか、こちらから伝えるべきことはきちんと伝えられているか、などを、全てメールでのやりとりで理解し、こちらからも伝える必要があります。
その上で、余計な質問をしてトランザクションが増えないようにしたり、こちらの伝えたいことを正確に表現したり(これは①にも繋がりますね)して、円滑に仕事のやりとりができるスキルが、翻訳者にも当然ながら求められます。
⑤自分の立場をわきまえて仕事に取り組めるスキル
一体何のことを言っているのか分からないかもしれませんが、よく、「自分の訳文に対するレビューや修正に対して逆ギレをする」人が、この業界には多いと聞きます。
多分、自分の訳文を否定された、と感じてしまい、更にそれが人格否定された、というように繋がってしまうのでしょう。
しかし、修正やレビューというのは、何も「訳文にケチをつける」というものではなくて、エンドクライアントが求めている品質により近づけるために必要な修正であったり、マニュアル(ガイドライン)の指示に沿っていない場合に必要な修正だったり、レビュワーの好みの修正だったりするわけです。
つまり、あくまで「仕事の一環」としての修正やレビューであるわけで、それを「自己否定」のように捉えてしまうのは、なんとも場違いな話ではないでしょうか。
当然ながら、こちらがミスしたことは、今後同じことをしないように改善方法を編み出して実践する必要がありますが、修正やレビューの中には、学びになる内容も多くあります(自分の引き出しにはない表現情報を知る、など)。仕事を通して自分も新しいことを学べるわけですから、それを謙虚に受け止められないのは、翻訳者としての適性は正直ないと思います。
また、これに関連することで言うと、「翻訳者」(フリーランス)というのは、立ち位置的に言うとあくまで「下請け」です。だから取引先との力関係で言うと、こちらのほうが立場が弱いのは当たり前です。それに対してあれこれ言うのは、場違いというものです。
ですから、その立場をわきまえたうえで、どう上手く仕事を捌くのか、理不尽な要求に対してはきっぱりとNOを言える、あるいは何らかの策を講じておく、というスキルも、翻訳の仕事をする際には持っていて損のないものと言えるでしょう。
⑥翻訳の資格は、立ち位置の確認程度に活用を
勘違いされることも多いかと思いますが、翻訳業というのは(通訳も同じですが)、参入するために「資格」は必要ありません。実力があれば仕事ができる、という、ある意味フェアで、ある意味残酷な世界でもあります。
これが、弁理士や税理士であれば資格あっての仕事(士業)になるので話は違ってくるのですが、翻訳業の場合、「はじめに資格ありき」で勉強やスキルアップを考えてはいけません。
そうではなく、まずはトライアルに合格する、実務で許容されるクオリティで仕事を捌ける状態に持っていくのが先決です。これが逆に「資格を先に」となると、その資格の勉強をするだけになってしまって、遠回りになってしまいます。
僕は実際、翻訳関係の資格は持っていませんが、年600~800万円程度の稼ぎは翻訳(特許翻訳)だけで確保しています。どうしても翻訳関係の資格を取りたいのであれば、ある程度実務の経験を蓄積した上で、スキルアップや勉強のために活用する程度に留めておくのがいいでしょう。
裏返して言うと、「まず資格をとってこの仕事をしよう」と考えている方は、翻訳業には向いていない、ということですね。
まとめ
今回は、自分のこれまでのキャリアを振り返って、そしてネットを介して会ってきた多くの方の実例をもとに、僕の考えをまとめてみました。
世間一般ではあまり強調されないかもしれませんが、産業翻訳というのも立派な「ビジネス」ですし、単に言葉に詳しい、英語ができる、というだけでは、仕事を続けていくには不十分です。ただ、かといっていわゆる「ビジネススキル」だけでも当然ながら不十分。
翻訳の仕事をする上で大切なのは、最低限のビジネススキルを備えながら、翻訳に関係するスキルを強化していくという発想です。是非、この記事を何度も読み直して、自分は翻訳業に向いているのか、現状で足りていない素質やスキルはあるのか、ということを確認してみて下さい。
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