フリーランスとして仕事をするにあたって大事なことの一つに、「取引先の分散」という考え方があります。
これは、本来的には企業経営に関して言える金言ともいうべきもので、「一つのカゴに卵をまとめるな」という有名な比喩でも、その大切さは説かれていますよね。
かつての自分も、そのようなことはつぶやいていますね。
フリーランスでクライアントワークをしていても、「売上は分散」は絶対死守しないといけない。会計ソフトで売掛金記録するときに取引先名もメモで記入できるから、年末のこの時期に12ヶ月の損益レポート見てどれくらい売上分散できているか確認しましょう。理想は最大割合の取引先でも50%切ること。 https://t.co/3JWVjt6Gcd
— Tatsuya YABUUCHI (@TYashf7) December 12, 2019
ただ、ここ2年ほどは、あまり良くないことだとは思いつつ、現実的に取引先の分散を図ることが難しくもなってきました。
そこで、そもそも論として考えたのが今回の、「本当に徹底分散すべきなのか?」ということです。
翻訳業で取引先分散というのは、実は難しいのではないか
私は特許翻訳の専業となっているため、いわゆる産業翻訳や文芸翻訳と言ったジャンルには手を出していませんので、あくまで自分の経験ベースになりますが、これは特許翻訳に限らず、あらゆる翻訳業に言えるのではないか…と、最近思うようになりました。
個人事業主で翻訳業を営む場合、取引先の分散というのは難しいのでは?
その一番の理由が、「スケジュール管理」です。
例えば、理想論を言うと、年商(=翻訳業の場合、ほぼ年収と言っていいでしょう)を、取引先3社で33.3%ずつ分散させるのがいいです。
年商1000万円だったら、A社から333万円、B社から333万円、C社から333万円。
でも、さすがにこれは理想論すぎるというか、机上の空論ですので、少しだけ現実路線寄りに進路変更をすると、例えばA社から450万円、B社から300万円、C社から250万円、という分散の仕方が考えられます。
比率で考えると、9:6:5となりますね(もう少しキリのいい比率になるように例を出したほうがよかったかもしれません)。
で、理想論はもちろん、こういう分散の仕方なのですが(もう少しざっくり言えば、例えば3:2:1とかでしょうか)、そもそも1人で仕事を捌くにあたり、こんなに上手く分散できるのか?という話がどうしても出てきます。
ちなみに、私の場合、取引先の分散が(結果的に)うまく出来た、という年がいくつかあるので、そのときの割合をざっくりとここで挙げてみます。
<2016年>
A社:B社:C社=17:6:5。
<2018年>
A社:B社:C社=10.5:9:8。
※1 これら2つの年でのA社、B社、C社は、必ずしも同じ取引先ではありません。あくまで、売上の大きい所から順に並べたにすぎません。
※2 これ以外にも小さな仕事を請けた取引先もありますが、便宜上全て無視しました。
2018年は、我ながら上手く分散された年だったな、とは思うのですが、その一方で、年間の売上は前の2年に比べて低めでした。
こうなった理由が、上に挙げた「スケジュール管理」なわけです。
要するに、1人で仕事に対応をしていると、複数の取引先と仕事をするとなると、どうしてもスケジュールのバッティングが生じてしまう可能性が高い。
例えば、月の初めからA社の仕事に取り組んで2週間後に納品(40万円)、その納品と同時にB社から1週間の仕事が来て(15万円)、その対応中にC社から大型案件の打診があり、Bを終えた後は6週間ほど、C社の案件(75万円)に対応…なんていうのは、まあ理想論も理想論、まず実現しないだろう、という話の好例と言えるでしょう。
正直な話をすると、翻訳者側からしても、別の取引先から異なる分野の案件を細々と受けるよりも、同じ取引先からある程度固まった分野の案件を継続して受けるほうが、処理速度も上がりますし、内容理解もしやすいので、旨みがあると言えます。そしてこれは、仕事を発注する側からしても同じことが言えて、仕事の打診をするたびに「今回は予定が埋まっていて受けられないです…」と断られたら、まとまって仕事を対応してもらえる人に割り振ろう、ということになるのではないでしょうか。
私も、2016年は特に、我ながらよくここまで分散ができたな、と思うような散り具合で、奇跡的に仕事の打診とスケジュールが被らなかった一年でした(今のところ、この年の売上が未だに、自分の過去最高の年間売上となっています)。
(※それでも、2番手以下の売上を合計しても、1番手の売上を下回っているくらい、分散していません)
逆に言うと、これ以外の2017年、19年~21年は、やはり1つ、継続的に仕事を割り振っていただいて優先的に対応する取引先、というのがありました。
今思い返してみても、これらの年では、2番手以降の取引先からは、仕事の打診も多くあったのですが、既に別の仕事が埋まっていて泣く泣く断る、ということが多くありましたね。
「取引先の分散」とは会社経営に言えることで、1人の場合は非労働集約事業に分散するのが最善手なのでは?
思うに、私の拙い経験に基づいて言うと、「取引先の分散」というのは、複数の社員を抱えて会社経営をする際に死守しなければならない金言であると言えるのではないでしょうか。
24歳のとき、取引先とのトラブルにより一気に2ヶ月分の売掛を払ってもらえなくなったことがある。
— 新谷学 アスパラ社長 (@ShintaniManabu) March 22, 2019
これが致命傷となり2億弱の純負債を背負うことになり、翌月の給料も全員分は支払えないような状況に。
なので250人くらいの従業員に解散を伝えて、破産もせずに全額返済することを決めた。(続く)
複数のスタッフがいる場合は、(翻訳業でも同じことが言えますが)複数の取引先から同時に仕事を請けても、捌くことができます。
「取引先の分散」というのはこういう風に、2人以上で人的資本のレバレッジを上手く使って、ある程度の規模でビジネスをするにあたって役立つ考え方で、1人で細々とやっていく個人事業では、ある程度パイプを作ることができれば、ほぼ専属のような形で仕事を請けるほうが、年商の最大化もできますし、スケジューリング管理なども含めた生活の質を挙げやすくなると思います。
(もちろんそのような状況でも、他の取引先の仕事で請けられるものは、取りこぼさずに請けておく)
その上で、人的レバレッジをかけることが難しい1人規模での個人事業では、自分のリソースを投入しなくてもよい別の事業に取り組んで、「翻訳×<何か>」の形でリスク分散をするほうが、はるかに現実的だと言えるでしょう。
もちろん、完全に「自分のリソースを投入しなくてもいい」事業なんてほぼありませんから、最初は自分の労力をかけるブログやYouTube(アフィリエイト、広告収入を目指す)、お金のレバレッジをかける不動産賃貸業(ある程度年商と年収、あるいは現預金が確保できていれば、融資を受けることも可能。最初は現金一括で買ってもよし)などが現実的な線になってくるかと思いますが、「投入する労働力」と「得られる果実」が非線形比例する事業に、本業をやりながら種まきをして取り組んでいく、というのがいいのではないかと思いますし、本業での取引先分散(リスクヘッジ)をするより、はるかに打たれ強い状態を確立することができるのではないでしょうか。
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